改訂新版 世界大百科事典 「プラズマ化学」の意味・わかりやすい解説
プラズマ化学 (プラズマかがく)
plasma chemistry
プラズマ中には電離によって生じたイオンと電子のほか,電子エネルギーが励起された原子や分子,遊離基などが存在するので,これら活性な化学種によって化学反応を誘起することができる。このような形でプラズマを化学反応に利用する分野をプラズマ化学と呼ぶ。プラズマ化学で使われるのは核融合プラズマと比べれば温度が低いものであるが,気体温度がプラズマの電子温度にほぼ等しく1万K程度である熱プラズマ(熱平衡プラズマ)と,気体温度が電子温度より低く1000K前後である低温プラズマ(非平衡プラズマ)に分けられる。前者はアーク放電によって,後者はグロー放電,高周波放電などによって得られる。
プラズマ化学は新しいプロセス,新しい材料の合成や加工技術として応用面で注目されている。プラズマ中の均一系反応を利用する場合と,プラズマに粉体や固体表面を接触させ,その界面での不均一系反応を利用する場合があり,以下二,三の具体例について述べる。
窒素プラズマジェット中に粉体原料を連続的に供給して窒化物を合成する試みが,ファインセラミックスの合成手法として興味をもたれている。チタン,タングステンの金属粉末のほか,アルミナやジルコニアのような酸化物を用いても窒化物が生成する。アルゴン水素プラズマ中へ気体四塩化ケイ素とアンモニアを吹き込み,窒化ケイ素の微粒子を得る方法もある。
熱プラズマを利用した化学プロセスの例として,炭化水素からのアセチレン合成がある。アルゴンまたは水素プラズマジェットにメタンを導入して,80~90%の高収率でアセチレンを生成することができる。メタンのほか,エタン,プロパン,ケロシンなどの炭化水素を原料としても同様の反応が可能である。
他方,低温プラズマの材料化学への応用が最近脚光を浴びている。いずれも固体表面が関与したプロセスで,化学析出,化学蒸発,表面改質に分類される。
化学析出は,原料気体を低圧放電させプラズマ化すると,基板上に薄膜が生成する過程をいい,有機の高分子膜が生成する場合はプラズマ重合とも呼ばれる。太陽電池や複写機などへの応用が可能な材料であるアモルファスシリコンの製造がこの手法を用いて行われている。シランガスSiH4をグロー放電により分解し基板上に析出させると,相当量の水素を含んだアモルファスシリコンが生成する。PH3やB2H5をプラズマ中に混入して,p型やn型の半導体とすることも可能である。
各種有機ガスのプラズマ重合によって得られる膜は1μm以下ときわめて薄くでき,しかも均一でピンホールがなく,共重合や積層化も可能であることから,分離膜,センサー,メモリー素子など機能性材料としての利用の研究が進められている。
プラズマを利用した蒸発過程(エッチング)は,ICやLSIなど半導体微細加工技術として重要性を増している。シリコンウエハーに画像を描画する際,シリコン層や有機レジスト層の薄膜を除去する過程が必要であるが,プラズマを利用してこれを行うことが可能であり,ドライエッチングと呼ばれる。シリコン層の場合はフルオロカーボンのプラズマで処理すると分解生成物がシリコン層と反応し,SiF4となって気化除去される。レジスト層の除去は酸素プラズマを用いて行うことができる。
重合を起こさない各種ガスを用いたプラズマ処理によって表面の改質を行う方法もある。表面に種々の極性基や密度高く橋架け構造を導入することができるので,材料の機能性を制御する手法としての応用が考えられている。
執筆者:石榑 顕吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報