プラトーノフ(読み)ぷらとーのふ(英語表記)Сергей Феёдорович Платонов/Sergey Fyodorovich Platonov

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プラトーノフ」の意味・わかりやすい解説

プラトーノフ(Andrey Platonovich Platonov)
ぷらとーのふ
Андрей Платонович Платонов/Andrey Platonovich Platonov
(1899―1951)

ロシアの作家。本名クリメーントフКлиментов/Klimentov。中央アジアのボロネジに生まれ、鉄道技師専門学校を卒業後、技師として働きながら詩や評論を書いていたが、中編『グラドフ市』(1926)、『エピファニの水門』(1927)、『秘められた人間』(1928)などで特異な作家として注目された。しかし五か年計画と農村集団化の道を歩み始めた祖国は、作家に大きな懐疑と幻滅を抱かせ、そうした疑問を率直に表明した『疑惑を抱いたマカール』(1929)、『ためになる』(1931)などが、社会主義を風刺する作品として激しい批判を浴び、それ以後作品の発表は事実上不可能となった。1930年代にはそのため批評の分野に力を注ぎ、『プーシキンはわれらの同志』(1937)、『プーシキンとゴーリキー』(1937)を発表した。27年から長編『チェベングール』を執筆、29年に一応完成をみるが、活字になったのは作家の死後だいぶたった72年である。それでも彼は『土台穴』(1929~30執筆。87年本国で最初の公刊。完全なテキストは95年)、『初生水の海』(1934)、『ジャン』(1938年執筆。66年公刊)などの代表的作品を、活字になるあてもないまま書き続けた。第二次大戦後も悲運は続き、47年に発表した短編イワノフの家族』(のちに『帰還』と改題)が、厳しい批判を受け、彼のすべての作品は二度と日の目を見ることのないまま、戦線での負傷が原因の結核失意のうちにこの世を去った。87年ペレストロイカ以後、初めて本格的再評価と、全作品の完全なテキストの公刊が行われ、現在では20世紀を代表するロシア作家と最高の評価を受けている。

[原 卓也]

『江川卓訳『秘められた人間』、原卓也訳『ジャン』(『新集世界の文学 第45巻』所収・1971・中央公論社)』『安岡治子訳『疑惑を抱いたマカール』(『集英社ギャラリー 世界の文学15』 1990・集英社)』『原卓也訳『プラトーノフ作品集』(1992・岩波文庫)』『亀山郁夫訳『土台穴』(1997・国書刊行会)』


プラトーノフ(Sergey Fyodorovich Platonov)
ぷらとーのふ
Сергей Феёдорович Платонов/Sergey Fyodorovich Platonov
(1860―1933)

ロシアの中世史家。ウクライナチェルニヒウで生まれる。ペテルブルグ大学を卒業。1899年より同大学教授。アカデミー会員(1920~1931)。研究の中心はロシアの動乱期にあり、主著は『16―17世紀モスクワ国家の動乱史概説』(1899)。そのほか、ゼムスキー・ソボール(全国会議)の研究などもある。彼の政治的見地は保守的であり、叙述は簡潔、正確であった。晩年サマラ(クイビシェフ)に追放されて、その地で死去。

[伊藤幸男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プラトーノフ」の意味・わかりやすい解説

プラトーノフ
Platonov, Sergei Fëdorovich

[生]1860.6.28. チェルニゴフ
[没]1933.1.10. サマーラ
ロシアの歴史家。 1882年ペテルブルグ大学卒業。 99年より同大学教授。科学アカデミー会員 (1920~31) 。 16世紀後半から 17世紀前半のロシア史,特に動乱時代 (スムータ) についての研究に画期的な業績をあげ,革命後も大きな影響を与え続けたが,君主主義者としての立場を変えず,逮捕され,サマーラに流された。著作に『歴史史料としての,17世紀動乱時代に関する説話と物語』 Drevnerusskiye skazaniya i povesti o Smutnom vremeni XVII veka kak istoricheskiy istochnik (1888) ,『16~17世紀モスクワ国家におけるスムータ史概説』 Ocherki po istorii smuty v Moskovskom gosudarstve XVI-XVII vv. (99) がある。

プラトーノフ
Platonov, Andrei Platonovich

[生]1899.9.1. ボロネジ
[没]1951.1.5. モスクワ
ソ連の作家。鉱山専門学校で学び,15歳のときから工場で働いたが,十月革命後,赤軍兵として国内戦に参加。国内戦の終結とともに技師となり,かたわら詩を書いて,処女詩集『空色の深み』 Golybaya glubina (1922) を刊行。『エピファーニの水門』 Epifanskie shlyuzy (27) ,『秘められた人間』 Sokrovennyi chelovek (28) の短編集で作家的地位を確立。『疑惑を抱いたマカール』 Usomnivshiisya Makar (29) ,『利益になるなら』 Vprok (31) は激しい批判を受け,沈黙を強いられたが,「雪どけ」後に再評価された。『ジャン』 Dzan (33) ,『フロー』 Fro (36) などの名作がある。

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