改訂新版 世界大百科事典 「ヘロンダス」の意味・わかりやすい解説
ヘロンダス
Hērōndas
前3世紀半ばに活躍した古代ギリシアの〈ミモスmimos(活写劇)〉詩人。ヘロダスHērōdasともいう。生没年不詳。彼の〈ミモス〉は,おもに都市下層民の日常生活の滑稽な断面を風刺詩の韻律に乗せて朗唱用の科白劇に仕立てたもので,ソフロンSōphrōnの散文による〈ミモス〉とヒッポナクスHippōnaxの〈イアンボス〉詩の双方の影響が認められるところから,特に〈ミミアンボスmimiambos〉と称される。若干の作品の舞台がコス島と特定されるため,コス島に縁があったことが推定されているが,生涯についてはまったく不明である。〈ミミアンボス〉は喜劇の中の野卑な遣り取りとも共通する面をもち,アレクサンドリアを中心地として当時隆盛していた高踏的な詩歌とはまったく傾向を異にしていた。《ミミアンボス》第8番には,作者自身を表すと思われる農夫が,ディオニュソス信徒の妨害にもかかわらず最後には詩神の栄冠をかちえるという〈夢〉が描かれており,当時の文学的風潮の中の彼の立場と決意がうかがえる。彼の作品は19世紀末まではわずかな量の断片しか伝えられていなかったが,1891年に8編(後に1編の断片が追加された)の作品を収めたパピルス写本が公刊され,一躍全貌が知られるようになった。
執筆者:片山 英男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報