日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘロンダス」の意味・わかりやすい解説
ヘロンダス
へろんだす
Herondas
ヘロダス、ヘロデスとも。紀元前3世紀前半に活躍したギリシアの擬曲(ぎきょく)(ミモスMimos)作家。プリニウス(小)は書簡(書簡集第四巻の第三書簡)のなかで、カリマコスと並べてその名をあげている。東エーゲ海のコス島に長くいたことは確かである。その作品はイオニア方言で書かれているが口語ではなく、死滅した語彙(ごい)をも生かした擬古文で、練り上げられた文語である。またアッティカの悲劇と古喜劇の影響が著しい。僅少(きんしょう)の引用断片のほか、1891年にエジプトでパピルスのなかから八作品が発見された。韻律は跛行(はこう)イアンボスというv‐v‐―v‐v‐―v‐‐‐―を基本にしている。
内容は日常の卑近な題材を使った寸劇である。たとえば『なかだち、またはとりもち婆(ばばあ)』では、夫の旅行中に妻に若い男をとりもとうとする婆、『おき屋』では、自分の抱え女が暴行されたことを法廷で訴える亭主、『先生』では、怠け者の生徒を母親の頼みで殴る先生が、それぞれ登場する。また、ソフロン、テオクリトスと同じ題材にちなんだ『アスクレピオスに奉献し犠牲を捧(ささ)げる女たち』もある。『嫉妬(しっと)深い女』『ひそひそ話』『靴屋』はいずれも今日でもみられそうな話である。『夢』は断片だが、百姓の語る夢に託した自分の作品の弁護と希望であろう。これらの作品は上演よりも朗読したらしく、短い台詞(せりふ)からなっている。
[風間喜代三]
『高津春繁訳『擬曲』(岩波文庫)』