ヘレニズム文学を代表する文学的貢献をなした前3世紀アレクサンドリアの詩人,学者。生没年不詳。北アフリカのキュレネで生まれ,若くしてアレクサンドリアに移り住み,郊外エレウシスで教師生活を営み,後アレクサンドリア図書館に職を得,その間にそれまでにギリシア語でつづられたほとんどすべての文献を網羅して文学史的に整理した《大目録》を完成した。文学作品の規模と質をめぐる文芸学上の問題で,弟子のロドスのアポロニオスと鋭く対立し,論争に敗れたアポロニオスはロドスに退いたと伝えられる。ローマの詩人オウィディウスの《イビス》は,カリマコスが自分の論敵を揶揄(やゆ)攻撃するために著した詩を模したものである。
彼の詩文や散文著述は800巻を満たしたと伝えられるが,中世写本の形で現存するのは《賛歌》と《碑詩》のみであり,彼の名を〈エレゲイア詩の王者〉と高からしめた《縁起詩集》その他のものは,パピルス断片としてわずかに知られているにすぎない。《大目録》をはじめ,《アテナイ劇作家年譜》《デモクリトス研究》その他数多くの散文著述はことごとく散逸した。彼の詩風は,技巧,学殖の点で,他の諸詩人の追随を許さぬ洗練度に達しているが,しかし人情の機微をうがつユーモアや人間理解にも満ちており,彼の金言名句を引用しているヘレニズム時代のパピルスは古典期の人気作家エウリピデスよりも数においては多い。
執筆者:久保 正彰
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古代ギリシアの詩人、学者。アフリカのキレネの出身。アレクサンドリアの図書館の司書となり、プトレマイオス2世の恩顧を受けた。学者としては、ギリシアのあらゆる学問分野における優れた業績を整理分類し、これを120巻からなる目録にまとめ、劇詩人などの研究や数種類の辞典を著した。彼の詩は、賛歌、エレゲイア詩、イアンボス詩、小叙事詩、短詩(エピグラム)など広い領域にわたっていた。写本に伝わるのは賛歌と短詩のみであるが、そのほかに多数のパピルス断片が発見されている。
代表作は各地の祭礼や習俗の縁起を歌った『アイティア』4巻(断片残存)。そこには技巧的な構成や変化に富む詩句、神話・歴史・地誌などの学問的考証がみられる。彼は磨かれた小品を重んじ、長大な叙事詩を痛烈に批判した。また文学理論をめぐり弟子のアポロニオスと論争したといわれる。ローマの詩人にも大きな影響を与えた。
[岡 道男]
前305頃~前240頃
ヘレニズム時代の偉大な文献学者,詩人。キュレネの人。アレクサンドリアのムーセイオン付属図書館蔵書目録120巻をつくり,詩ではエピュリオン(小叙事詩)の形式を唱えて,ローマの抒情詩に大きな影響を与えた。
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…しかしヘレニズム期の詩人たちは山野や田園や都市の一隅を彼らの宇宙と見立てて,そこに文芸的造詣深く,情緒細かい人間理解が交わる文学の世界を築く。ロドスのアポロニオス,キュレネのカリマコスは,互いに文学観を異にしたと伝えられるけれども,共通するところもまた著しい。2人の深い学識と詩的洞察によって,森や泉,古い神々のほこらやひなびた祭祀,またそれらのいわれを伝える縁起譚が田園の神話となってよみがえる。…
…17世紀初頭に新しい学問や技術の発展をふまえてF.ベーコンが新しい分類(図3)を始め,フランスの《百科全書》(図4)に引きつがれたが,19世紀にA.コントが歴史的,論理的順序による分類(図5)を提唱して,これが現在も大学の教科編成や図書の分類に用いられている。劇を喜劇,悲劇,頌歌に分類したのは前3世紀の詩人カリマコスであるが,彼はアレクサンドリアの図書館司書だったので,図書目録のための分類であった。中国では学問の分類も図書の分類によったので,経,史,子,集の〈四部〉や集,六芸,諸子,詩賦,兵書,術数,方技の〈七略〉が用いられた。…
…政治に希望を失った青年たちの中に,一種の芸術至上主義的な文学改革運動に取り組む一群の詩人が現れた。〈新詩人〉と呼ばれるこれらの詩人は,アレクサンドリア派のカリマコスらの作風と理論を初めて意識的にローマに取り入れて,先輩たちの長いだけでしまりのない詩を批判し,洗練と技巧と学識と〈小さい完成〉を目ざした。彼らの中で特に才能に恵まれたカトゥルスの作品だけが今日まで残存した。…
…東洋でもアカンサスは,例えばインドのガンダーラ美術にみられるインド・コリント式柱頭などに,西方伝来の装飾モティーフとして,丸彫や浮彫の作例を多く残している。【友部 直】
[伝説]
コリント式柱頭の創始者といわれる前5世紀ころのギリシアの彫刻家カリマコスKallimachosには,アカンサスに関する次の伝説が語られている。コリントスのある少女が病死し埋葬された際,その乳母が故人の遺品をかごに入れ,上にタイルをかぶせて墓のそばに供えた。…
…このため〈ロドスの人Rhodios〉と呼ばれる。長編詩と短編詩の是非をめぐる師カリマコスとの激しい文学論争は当時の有名な事件として伝えられている。《アルゴナウティカ》は長編詩を嫌う当時の傾向を押し切って書かれた。…
※「カリマコス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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