イギリスの劇作家シェークスピアの喜劇。1597年ころ作。題材は1558年イタリアで出版された物語集《馬鹿者》その他から得たと思われる。ベニスの商人アントーニオは親友バッサーニオがベルモントに住むポーシャのもとに求婚に出かけるための資金を,ユダヤ人の高利貸シャイロックからみずからの肉1ポンドを抵当に借りるが,やがて自己の所有する商船が難破したために返済不能となって,命を奪われそうになる。バッサーニオと結婚したポーシャは夫の恩人の急を聞くや,ひそかに男装し法学博士としてベニスの法廷に現れ,肉は与えるが血は一滴たりとも許さぬと判決する。敗訴したシャイロックは財産を没収され,キリスト教への改宗を命じられる。彼の娘ジェシカもキリスト教徒ロレンゾーとの駆落ちに成功し,アントーニオの商船も無事に帰港して,万事めでたく終わる。バッサーニオとポーシャ,ポーシャの召使ネリッサとバッサーニオの友人グラシアーノ,ジェシカとロレンゾーという三つの恋のプロットがおとぎ話的なエピソードを連ねて展開する典型的なロマンティック・コメディであるが,その中にあって一見悲劇的とも思えるシャイロックの存在をめぐって意見の対立が絶えない。シャイロック像を歴史的にたどると,道化役,復讐鬼・悪役,迫害された民族の典型的人物としての悲劇的英雄,喜劇的悪役comic villainなどがある。
日本への初期の紹介では,C.ラム《シェークスピア物語》に依拠した井上勤の翻訳《人肉質入裁判》(1883)があり,1885年に中村宗十郎一座が大阪戎(えびす)座で上演した宇田川文海による翻案《何桜彼桜銭世中(さくらどきぜにのよのなか)》は,日本におけるシェークスピア劇上演の嚆矢(こうし)とされる。
執筆者:笹山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イギリスの劇作家シェークスピアの五幕喜劇。1597年ごろの作。イタリアの物語から取材したもので、人肉質入れ物語と箱選びの物語を組み合わせている。
ベニスの商人アントニオは、親友バサーニオからベルモントに住むポーシャ姫に求婚するための旅費の調達を依頼され、持ち船を担保にユダヤ人の高利貸シャイロックから借金し、返済不能の場合は自分の肉1ポンドを提供する証文を与える。ポーシャは求婚者たちに金、銀、鉛の三つの箱を示し、自分の肖像の入ったものを選ばせるが、バサーニオは鉛の箱をとって求婚に成功する。しかしアントニオは船が帰港しないので生命を奪われかけるが、男装したポーシャがベニス法廷の裁判官となり、肉は与えるが血を流してはならぬと宣言するので、シャイロックは敗訴となり、財産を没収され、キリスト教への改宗を命じられる。やがてアントニオの船は帰港し、シャイロックの純真な娘ジェシカも恋人ロレンゾと結婚する。
ロマンチックな筋立てをもち、甘美な場面に富んだ喜劇であるが、当時のロンドン市民がもっていた金融業者に対する憎悪や反ユダヤ感情も背景をなしている。しかし作品の構想としては、シェークスピアはシャイロックを赤鼻の典型的なユダヤ人、すなわち憎まれ役として設定したのであろうが、人間として深く書き込んだがゆえに実在感の大きな人物となり、悲劇性を帯びるに至った。舞台でも19世紀以後はそのように上演されるのが通常である。
[小津次郎]
『『ヴェニスの商人』(中野好夫訳・岩波文庫/福田恆存訳・新潮文庫)』
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