デジタル大辞泉 「ペイン」の意味・読み・例文・類語
ペイン(Thomas Paine)
ペイン(pain)
[補説]病気や傷による肉体的な痛みと、悲しみなどによる精神的な痛みのどちらにも使う。
アメリカ独立革命に貢献した政治評論家。クェーカーのコルセット職人の子としてイギリス、ノーフォークに生まれる。グラマー・スクールに通ったが、13歳のとき父親と同職の徒弟となった。その後、私掠(しりゃく)船船員、収税吏、英語教師などを経た。1772年、収税吏の給料値上げ運動をおこし、小冊子『収税吏の主張』を著した。ニュートン学説と自然科学に深い興味を抱き、1774年37歳のとき、科学者としてすでに有名であったフランクリンとロンドンで知り合い、彼の紹介でアメリカに渡った。フィラデルフィアで1775年に創刊された『ペンシルベニア・マガジン』の編集者となる。1776年『コモン・センス』を匿名で出版。当時本国との対立は戦争状態に発展していたが、植民地のほとんどの人々は和解を信じていた。この小冊子は、本国からの独立による植民地の利益と世襲君主制打破の意義を具体的に平明な文章で説き、人々の独立への気運を促した。独立戦争中は、アメリカ軍に参加しながら政治論文『危機』の執筆を続けた。1777年大陸会議外交委員、1779年ペンシルベニア議会書記に任命され、1787年にはヨーロッパに渡り、バークの『フランス革命への省察』に反論して『人間の権利』(1791~1792)を発表、革命を擁護した。1792年フランス市民権を与えられたが、ジャコバン政権下で投獄され、1年後アメリカ公使モンローに救出された。その後『理性の時代』『土地分配の公正』を著し、1802年再度渡米したが、人々にはすでに忘れられ、不遇な晩年を送った。
[白井洋子]
『小松春雄訳『コモン・センス』(岩波文庫)』▽『西川正身訳『人間の権利』(岩波文庫)』▽『ハワード・ファースト著、宮下嶺夫訳『市民トム・ペイン――「コモン・センス」を遺した男の数奇な生涯』(1985・晶文社)』
アメリカ独立革命を促進した啓蒙的文筆家。コルセット職人の子としてイギリスに生まれ,各種の職についたがいずれも成功せず,1774年アメリカへ移住,76年1月小冊子《コモン・センス》を刊行,イギリス領アメリカ諸植民地の独立を訴え,アメリカの人心に多大な影響を与えた。その後植民地軍に従軍,《危機》と題する小冊子(全16編)を次々に刊行して,兵士の士気の鼓舞に努める。87年ヨーロッパに渡り,E.バークのフランス革命批判にこたえてイギリスで《人間の権利》(1791-92)を発表,共和制の擁護に努めたが反逆罪に問われフランスへ逃れた。フランスの市民権を得て国民公会議員に選ばれたが,ジロンド党の勢力失墜とともに市民権を奪われ,投獄された。その後《理性の時代》(1794-96)で理神論の見解を公にした。晩年をアメリカで,孤独と不遇のうちに送る。ペインはけっして新しい思想を生んだわけではないが,時代の思想を大衆に巧みに訴え,歴史を動かした人間といえよう。
執筆者:斎藤 真
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1737~1809
イギリス生まれの文筆家,革命思想家。アメリカの独立の数年前アメリカに渡り,1776年『コモン・センス』を書いて名声を博した。91年の著書『人間の権利』も有名。
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…アメリカを独立に踏み切らせるのに大きな役割を果たしたT.ペインのパンフレット。1776年1月フィラデルフィアで刊行され,世襲君主制の否定とイギリス本国からの独立を当然の常識common senseであると直截簡明に訴え,3ヵ月で12万冊売れたという。…
…実際,同時代のイギリスでは,共和主義は民主主義とほぼ同義の,支配層のもっとも嫌う言葉であった。《コモン・センス》(1776)を書いてアメリカ人に独立の意義を教えたイギリスの急進主義者T.ペインが,《人間の権利》(1791‐92)の中で,アメリカの代表制こそ,アテナイの民主主義を大規模社会で,しかもより完全に実現させた,まさに共和主義の真髄である,と手放しに賞賛できたのもこのためである。
[ジャクソニアン・デモクラシーとトックビル]
19世紀に入りアメリカでは,〈共和主義の宮廷〉という言葉に象徴される東部共和主義文化の貴族主義化があり,これに対して,独立農民の立場から,アメリカの理念の再純化としてrepublican democracyまたはdemocracyが新たに唱えられ,1828年大統領選挙におけるA.ジャクソンの圧勝とともに,〈ジャクソニアン・デモクラシーJacksonian Democracy〉の時代を迎える。…
※「ペイン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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