イギリス生まれの思想家トマス・ペインの主著。アメリカ独立戦争期の聖典。1776年1月アメリカ、フィラデルフィアで刊行。アメリカ植民地人が、レキシントン・コンコードの戦い(1775年4月)でイギリス政府軍に勝利したのちにも、依然として自治の拡大のみを唱え独立に踏み切ることをためらっていたときに、いまや本国から分離して独立を宣言することは常識=コモン・センスとなったという論調の本書が出現し、植民地人を勇気づけた。植民地人が独立をためらっていた最大の理由は、イギリス国王と「民主主義」の母国に対する尊敬の念、また独立すれば経済的に自立できないのではないかという恐怖心にあった。
ペインは本書において、万人の自由と平等を主張する自然権思想の立場から、イギリスの政治制度は世界的に賞賛されてはいるが、その実態は、世襲の君主をいただき、非民選の貴族院(上院)が存在し、また庶民院(下院)も一部の有産者からのみ選出されているとして、イギリス民主主義の神話を打ち砕いた。そして、独立によってこそ真に自由で民主的な国家をつくることができると主張し、さらに、当時の植民地経済を分析して、独立後も十分に自立できることを人々に示した。本書は匿名で出版されたが、3か月間に12万部、最終的には50万部も売れたといわれる。当時の植民地の人口が約300万人ということであるから、本書がいかに大きな影響力を与えたかが推測できよう。ペインが『コモン・センス』で始めた仕事を、ジェファソンが「独立宣言」で仕上げたのである。
[田中 浩]
『小松春雄訳『コモン・センス』(岩波文庫)』
アメリカを独立に踏み切らせるのに大きな役割を果たしたT.ペインのパンフレット。1776年1月フィラデルフィアで刊行され,世襲君主制の否定とイギリス本国からの独立を当然の常識common senseであると直截簡明に訴え,3ヵ月で12万冊売れたという。1775年4月より本国と植民地間とでは武力衝突が行われ,アメリカ人の間で独立への気運は醸成されつつあったが,イギリス国王に対する忠誠心,イギリス人であることの意識のゆえに,独立に踏み切れずにいた。そのもやもやをペインは,難解な法律論ではなく,通常の人々にわかる平明な言葉でみごとに断ち切ったというべきであろう。《コモン・センス》は,彼の《人間の権利》(1791-92)とともにフランス革命にも大きな影響を与え,さらに植民地解放の書として,ラテン・アメリカ諸国の独立に寄与した。
執筆者:斎藤 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ペインが1776年に著した小冊子。アメリカ人に,イギリスとのつながりを絶ち独立の共和国を樹立するよう呼びかけた。数カ月のうちに12万部を売り,アメリカの独立の機運を高めた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…常識(英語でコモン・センス)とは,もっとも普通には,われわれの間に共通の日常経験の上に立った知,一定の社会や文化という共通の意味のなかでの,わかりきったものを含んだ知であると考えられている。つまりこの場合,それは,あれこれの立ち入った専門的知識にくらべてありふれた知識,また,厳密な学問知にくらべてあいまいさを含んだ日常の知だということになる。…
…つまり,対象そのものの差ではなく,それに対する態度の差にかかわっているといえる。 ノンセンスの対立語は,センスよりもむしろコモン・センス(常識)と考えたほうがいい。人間の抱く〈現実〉の観念は,ある文化・社会の文脈のなかで,構成員間の無意識的合意(常識)の上に構成されている。…
…とともに,戦争が長引くにつれ,植民地人の間で本国への反感が強まり,独立への気運が増大してくる。その気運を一挙にすすめたのが,独立を当然のこととして説いた76年1月のトマス・ペインの《コモン・センス》であった。大陸会議も76年5月各植民地に新政府設立を勧告し,バージニアなど新憲法を制定し始めた。…
…アメリカ独立革命を促進した啓蒙的文筆家。コルセット職人の子としてイギリスに生まれ,各種の職についたがいずれも成功せず,1774年アメリカへ移住,76年1月小冊子《コモン・センス》を刊行,イギリス領アメリカ諸植民地の独立を訴え,アメリカの人心に多大な影響を与えた。その後植民地軍に従軍,《危機》と題する小冊子(全16編)を次々に刊行して,兵士の士気の鼓舞に努める。…
※「コモンセンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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