ドイツの作家ヘッセの長編小説。1904年刊。スイス・アルプスの湖畔の小村に自然を友として成長した主人公ペーターが、さまざまな体験を経てしだいに自我に目覚め、文学にも目を開くが、やがて勤務地の大都会への幻滅、アッシジの聖フランチェスコに心ひかれての巡礼行、不幸な身体障害者への愛の献身などがあったのち、最後に、老父の病気のため故郷に帰り、村のために働く決意をする。ドイツ伝統の教養小説の一つ。この小説の大成功でヘッセは作家生活に入ったが、ここには作者の生涯の重要なモチーフがほとんどすべて含まれ、とくに、全編にみなぎる清新な叙情性で、持続的な人気がある。
[藤井啓行]
『高橋健二訳『郷愁』(新潮文庫)』▽『関泰祐訳『青春彷徨』(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報