ホウセンカ(読み)ほうせんか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホウセンカ」の意味・わかりやすい解説

ホウセンカ
ほうせんか / 鳳仙花
[学] Impatiens balsamina L.

ツリフネソウ科(APG分類:ツリフネソウ科)の一年草。属名のインパチエンスImpatiensはラテン語で「忍耐しない」という意で、種子が熟すと果皮が破れ、種子が飛散することに基づく。高さ30~60センチメートル。茎は太く多肉質、下部の節は膨れ、枝条は赤色を帯びる。葉は柄があって下方では対生、上方では互生または輪生し、長楕円(ちょうだえん)形で鋸歯(きょし)がある。夏から秋、葉腋(ようえき)に花を2、3個横向きに開く。花色は赤、桃、白、淡桃色のほか、絞りがある。花弁は5枚、または2枚が合体して3枚になる。萼片(がくへん)は5枚または3枚、1枚は大形で花弁状になり、後方に伸びる。雄しべは5本。子房は上位、5室からなる。園芸品種としては高性の一重咲き、高性の八重咲き、弁の重ねの厚い椿(つばき)咲き(いずれも高さ60~70センチメートル)、頂部に大輪八重咲き花を開く矮性(わいせい)種(高さ40センチメートル)などがある。繁殖は実生(みしょう)により、4月ころ、排水と日当りのよい所に播種(はしゅ)する。現在では、異種アフリカホウセンカI. walleriana Hook.f.(I. sultani Hook.f.)をもとにヨーロッパで育種されたホウセンカの品種が、インパチエンスの名で盛んに栽培され、鉢物、花壇に利用される。

[鈴木龍二 2021年3月22日]

文化史

中国では宋(そう)代から栽培され、張翊(ちょうりゅう)は『花経(かきょう)』で、当時流行した花を九品にランクづけたが、ホウセンカは金鳳の名で第七品に扱った。日本には室町時代に渡来したらしいが、一条兼良(いちじょうかねら)は『尺素往来(せきそおうらい)』で、秋花34種中にあげている。初期のころはいけ花にも使われ、『仙伝抄』(1536)に記載されている。また『多識編』(1612)では、「骨ぬき」の名で毒草に分類されている。これは『本草綱目(ほんぞうこうもく)』の影響で、その著者の李時珍(りじちん)は、のどに骨が刺さったおり、ホウセンカの種子を砕いて水に溶き、飲み込むと骨が溶けてしまうと述べている。赤い花を突き砕き、ミョウバンか重曹をすこし加えるか、カタバミの葉をもみ合わせると、薄い茶色の液が出るが、かつてそれが爪(つめ)を染めるのに用いられた。そのため、別名ツマベニまたはツマクレナイという。

[湯浅浩史 2021年3月22日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ホウセンカ」の意味・わかりやすい解説

ホウセンカ (鳳仙花)
(garden)balsam
balsamine
Impatiens balsamina L.

夏の花壇や鉢物として広く利用されるツリフネソウ科の一年草。原産地はインド,マレー半島,中国南部。高さ30~60cm,茎は多汁で直立し,下部の節部はふくらむ。葉は粗い鋸歯のある披針形で密生し,葉腋(ようえき)に2~3花をつける。花は大きく花弁は5枚で幅広く互いに重なり,3片の萼のうち1片は湾曲した距となり,蜜腺がある。果実は5室,果皮は多肉で弾力があり,中の種子が熟して物に触れると,果皮は5片に裂けて巻き縮み,種子をはじき飛ばす。園芸品種は花色が紅,紫,白,ピンクなどあって美しく,八重咲き,ツバキ咲きもあり,高性種,矮性(わいせい)種の別もある。赤い花でつめを染めたりするので,ツマクレナイやツマベニの和名がある。また,魚骨がのどに刺さったとき種子をかんで飲めば抜けるので,ホネヌキという一名もある。種まきは4~5月,直まき,移植法のいずれでもよいが,日当りのよい湿地によく育ち,高温期に開花する。秋冷で白渋病や斑点病が多発するので,硫黄剤で防除する。

 別種のアフリカホウセンカI.sultani Hook.f.はアフリカ東岸ザンジバル島原産の多年草で,花は5弁の平咲きまたは八重咲きで,花色も多い。早春に温室で播種(はしゆ)されたものがインパチエンスと呼ばれて市販される。最近導入され,栽培が広まったニューギニア原産の数種は花も大きく葉も多彩に着色して美しいが,耐寒力はアフリカ種よりも弱い。
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百科事典マイペディア 「ホウセンカ」の意味・わかりやすい解説

ホウセンカ(鳳仙花)【ホウセンカ】

インド,マレー原産のツリフネソウ科の一年草。普通,庭園に栽植。茎は多汁で,草たけ60cmに達し,葉は縁に細かい鋸歯(きょし)のある披針形。夏〜秋,細い柄のある花を葉腋に横向きにつける。花の後方には下に曲がる細長い距がある。花色は紅・桃・白・絞り等,八重咲もある。紡錘形の【さく】果(さくか)は,熟するとわずかな刺激で5片に裂開して,種子を散らす。なお,花は古く爪(つめ)を染める(爪紅)のに用いられた。
→関連項目アフリカホウセンカ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホウセンカ」の意味・わかりやすい解説

ホウセンカ(鳳仙花)
ホウセンカ
Impatiens balsamina; garden balsam

ツリフネソウ科の一年草。アジア南部のインド,マレー半島および中国の原産で,現在では夏の花として世界中で広く栽培され,園芸品種が多い。草全体が多肉質で軟らかく,茎は直立し,まばらに分枝する。下部の節はふくらみ不定根を出す。葉は披針形で先端はとがり鋸歯がある。赤みを帯びた葉柄があり,互生する。夏に,葉腋から花柄で吊下がった花を横向きにつける。花は左右相称で,萼片が変形した距が後方へ鉤形に曲っている。花色は赤,紫,黄,白などで,八重咲きもある。果実は細毛のあるとがった楕円形の 蒴果で,熟すると黄褐色の種子を勢いよく飛ばす。

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世界大百科事典(旧版)内のホウセンカの言及

【マニキュア】より

…日本でつめに紅を塗る風俗は記録では平安末期の《雍州府志》にまでさかのぼるが,もともとは中国から伝わった風俗で,中国では唐の楊貴妃は手足のつめが紅色で,宮廷の女性たちがそれをまねたのが爪紅(つまべに)の始まり,とする伝説がある。ホウセンカの花をついてその赤い汁を塗ったらしいことが諸書に見えている。日本でもホウセンカをツマベニとかツマクレナイと呼ぶ地方がある。…

※「ホウセンカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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