改訂新版 世界大百科事典 「種まき」の意味・わかりやすい解説
種まき (たねまき)
sowing
作物の種子を圃場(ほじよう)または苗床にまきつけることで,播種(はしゆ)ともいう。種まきは作物栽培の出発点にあたり,スタートを順調にすることが,その後の生長を保障する要件となる。
種まき前の処理
種まきの前の準備としては,充実した種子を選び(選種の項目を参照),休眠性のある種子では,乾熱処理など休眠を打破する処理を行い,マメ科牧草などに見られる硬実種子に対しては種皮に傷をつけて水分の透過を可能にするなどの措置をとる。また種子についている病原菌の殺菌も行う。種まき前のこれらの処理を種子予措という。秋まきの作物を春まき栽培に使う場合には,種子または幼植物を一定期間,所定の低温に合わせることが必要である。この処理は春化処理とよばれる。種子の発芽には好適な温度,水分,酸素の条件が必要であり,あらかじめ適当な条件を与えて発芽を済ませた種子をまくことにより,出芽を早め,斉一で確実な出芽を期待することができる。このような方法を芽出しまきといい,発芽させる処理を催芽という。催芽は種子に十分吸水させたのち,20~30℃の加温を行う。この場合,芽を伸ばしすぎると種まきの際,芽を損傷するので,処理期間は適当な長さにとどめる。イネの場合には,芽がわずかにふくらんだ程度が目安とされる。種まきにあたっては,圃場または苗床の耕起,砕土,整地を済ませるのがふつうであるが,これらの作業を省いた不耕起まきあるいは不整地まきが行われることもある。
種まきの方法
種まきの方法には,散播(さんぱん),条播,点播,株まき,混播などがある。散播はばらまきともいい,種子を圃場または苗床に一面にまき散らす方法で,牧草などの播種に用いられる。機械を用いる場合はブロードキャスターにより,ハローをかけて土中への混入と覆土を同時に行う。この方法は労力は少なくてすむが,種子量は多く要し,後で除草など栽培管理のため圃場に入る場合には不便である。条播はすじまきともいい,一定の間隔ですじを作り,そこに種子をまく方法であり,ムギ,雑穀などの畑作物,ニンジン,ホウレンソウなどの野菜類に広く用いられる。機械ですじまきを行うためにはドリルを用いる。すじを作ることは,生育する作物にとって通風,受光の上からもよく,栽培管理の作業上も好都合である。すじまきの中には広幅まき,複条まき,密条まきなどの変形がある。点播はすじに一定間隔で種子をまく方法で1ヵ所に2~3粒ずつまいておき,発芽後間引きを行って,1~2本立とする。トウモロコシ,ダイズ,アズキ,根菜類などに用いられる。機械はプランターを用いる。株まきは点播と同様であるが,1ヵ所にまく種子数が多い点で点播法と異なる。混播はばらまきまたはすじまきで,2種以上の作物の種子を混合して同時にまきつける方法である。牧草地などで行われるのがふつうで,イネ科牧草とマメ科牧草を組み合わせることが多い。マメ科作物は空気中の窒素を固定するので肥料が節約でき,飼料の栄養としてもよい組合せになるという。種まきの時期は,作物の特性,経営上の計画などを考慮して決定する。
作物の特性としては,秋まき性,春まき性あるいは早生品種,晩生品種などの違いがある。野菜などでは,供給の少ない時期に出荷することが価格上有利であり,早出し,晩(おそ)出しあるいは周年供給をねらった栽培を行う。労力上,天候上の理由などから播種の時期には一定期間の幅が必要となる。播種量は,種子の発芽率と栽植密度を考慮して決める。種まきの方法によって必要とする種子量は異なり,ばらまきでは最も多く,条播,点播の順に少なくてすむ。このほか,播種量に関連する事項として,早生品種は密植,枝分れや分げつの多い品種は疎植,茎葉を目的とする場合には子実を目的とする場合より密植,晩(おそ)まきでは密植,寒地では密植などの通則がいわれており,これらの点も考慮する。播種の深さは溝の深さ,覆土(種子の上にかける土)の量によるが,一般に覆土の厚さは,種子の大きさの3倍くらいがよいといわれる。覆土が厚すぎると種子は酸素不足となり,地表まで出芽しなかったり,出芽が遅れたりする。浅まきにすぎると,雨などによって種子が露出して移動したり,鳥害をうけたりする。種まきの際は,同時に施肥を行うことが多い。この場合,種子が肥料に直接接触すると,肥料やけを起こすことがあるので,肥料を先にまいてから少し土をかけ,その上に種をまく方法をとる。この場合の肥料と種子の間の土を間土という。施肥と播種を同時に行う施肥播種機を用いる場合も,種子と肥料の位置を5~7cm離すのが普通である。
執筆者:浜村 邦夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報