日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボイヤー」の意味・わかりやすい解説
ボイヤー
ぼいやー
Paul D. Boyer
(1918―2018)
アメリカの生化学者。ユタ州のプロボに生まれる。ブリガム・ヤング大学を卒業後、ウィスコンシン大学に進学し、生化学を専攻する。1943年博士号を取得後、第二次世界大戦中はスタンフォード大学で研究プロジェクトに参加し、血漿(けっしょう)タンパクを研究しタンパク質研究の基礎を身につける。1945年ミネソタ大学助教授に就任直後、アメリカ海軍に入隊し、海軍医学研究所で1年ほど過ごす。終戦を迎えて1946年ミネソタに戻る。1950年代、アデノシン三リン酸(ATP)合成酵素を研究の中心にすえ、そのリン酸化の反応機構解明に取り組む。1963年カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授。1990年同校名誉教授となる。1971年、ATP合成反応においてエネルギーは、アデノシン二リン酸(ADP)と無機リン酸からATP分子を合成する反応そのものではなく、合成されて酵素にしっかりと結合した状態のATPを放出する際に消費されていることを明らかにした。さらにいくつかの実験結果を踏まえて、ATP合成酵素自身の一部が回転することで反応が進行するという機構を理論的に示した。のちに、J・ウォーカーが、X線結晶構造解析によってATP合成酵素の三次元構造を明らかにし、ボイヤーの説を裏付けた。これらの功績により、ウォーカー、イオン輸送酵素を発見したスコウとともに1997年のノーベル化学賞を受賞した。
[馬場錬成 2018年6月19日]