人が自ら荷物を背に負って運ぶ運搬業者のこと。物資を輸送する方法としてはもっとも原始的なもので、すでに古代社会からその存在が確認されている。戦国時代(16世紀)ごろまでは陸上輸送機関の主力として活躍していたが、江戸時代以降は牛馬による輸送が発達し、歩荷は補助的なものとなっていった。歩荷が最後まで残ったのは牛馬が通えぬ山間地域で、とくに中部山岳地帯では昭和になってからもみられた。歩荷の形態はおよそ三つに分けられ、農民が農閑期に余業として行うもの、歩荷専業のもの、専業者のなかで単に運搬をするだけでなく行商を兼ねるもの、があった。物資を運ぶ際は背負い梯子(ばしご)と杖(つえ)を用いる。荷物は背負い梯子に縛り付けて歩き、休むときは背負い梯子の下部に杖を当て、立ったまま息を入れた。歩荷には男ばかりでなく女も従事したが、背負う重量は男が16貫(60キログラム)、女が12貫(45キログラム)くらいである。歩行速度はきわめて遅く、積雪期などは1日3里(約12キロメートル)しか行けなかったという。輸送物資は、山間部から麻やたばこを運び出し、帰りは海岸部から塩や魚を、平野部からは米を背負ってゆくのが一般的であった。
[胡桃沢勘司]
『『明治大正史・世相篇』(『定本柳田国男集24』1963・筑摩書房)』▽『新城常三著『鎌倉時代の交通』(1967・吉川弘文館)』▽『北見俊夫著『市と行商の民俗』(1970・岩崎美術社)』▽『胡桃沢勘司著『山あいを塩と魚が行く道』(『日本の街道 三 雪の国北陸』所収・1981・集英社)』
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