アメリカの遺伝学者。医者の三女として、コネティカット州ハートフォードに生まれる。コーネル大学農学部で遺伝学を学び、1923年に卒業、大学院に進学し、1927年に博士号を取得した。同大学の植物学専任講師、カリフォルニア工科大学、ドイツのカイザー・ウィルヘルム研究所(現、マックス・プランク研究所)の研究員を経て、1934年にコーネル大学で研究員となった。1936年ミズーリ大学の助教授に就任したが、1941年退職、翌1942年カーネギー・ワシントン研究所コールド・スプリング・ハーバー支所の研究員、1967年同研究所の名誉研究員となり、死ぬまでコールド・スプリング・ハーバーで研究を続けた。
長年にわたりトウモロコシの遺伝について研究したが、初期の研究では、トウモロコシ染色体を顕微鏡で観察し、表現型(外に現れた形質の特徴)と染色体の形態の相互関係を詳しく調べあげている。さらに、夏に交配実験を行い、冬にその実験結果の分析をするという研究を繰り返した結果、「動く遺伝子(トランスポゾン)」の存在に気づいた。そして、この遺伝子は染色体上を移動し、その際に他の遺伝子を活性化したり、抑制したりする調節機能をもつことを明らかにした。しかし、この研究は発表時にはほとんど無視された。やがて、バクテリアでも「動く遺伝子」が発見されて証明され、今日では遺伝子工学の分野で利用されている。1983年「動く遺伝子」の発見によってノーベル医学生理学賞を受賞したが、植物の研究によってこの賞を獲得するのは、きわめて珍しいことである。
[編集部 2018年11月19日]
『エブリン・フォックス・ケラー著、石館三枝子・石館康平訳『動く遺伝子――トウモロコシとノーベル賞』(1987・晶文社)』▽『シャロン・バーチュ・マグレイン著、中村桂子監訳『お母さん、ノーベル賞をもらう――科学を愛した14人の素敵な生き方』(1996・工作舎)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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