イギリスの詩人バイロンの三幕詩劇。1817年刊、1824年初演。ゲーテの『ファウスト』に暗示を受けたといわれる。スイスのアルプス山城に住む若い当主マンフレッドは、かつて恋ゆえに人妻を死に追いやった暗い罪業感に悩み、生に絶望して、静かな忘却を求めている。彼は魔術の力を借りて、天地のあらゆる精霊、妖女(ようじょ)たちを呼び集め、「自己忘却」の道を尋ねるが、答えを得ることができず、しかも自殺も許されず、ついに予言の刻(とき)がきて、つかみかかる悪魔に、「もう、貴様の餌食(えじき)にはならぬ。われとわが身を破壊してきたおれだ。これからだってそうするのだ」とののしりつつ、息を引き取る。バイロンの近代的自我意識を、もっとも強烈に表現した詩人中期の代表作。
[上田和夫]
『小川和夫訳『マンフレッド』(岩波文庫)』
…この苦い経験は《チャイルド・ハロルドの遍歴》第3,4巻(1816,18)に結実した。ライン川をさかのぼり,スイス,イタリアを放浪中,《シヨンの囚人》(1816),劇詩《マンフレッド》(1817),《マゼッパ》(1819),《カイン》(1821)を書いた。そこには因襲への抵抗と懐疑,大胆な自我宣言が共通にみられる。…
…透谷は,この作品において,大魔王に象徴される世俗的な論理や倫理に,素雄の内面を対決させ,その自意識の劇的な葛藤のうちに,自己の近代意識確立の苦闘を反映させたと言える。おもに,バイロンの《マンフレッド》の構想が借りられているが,世界観的な劇詩の試みとして,近代詩の創成期においてばかりでなく,その後においても,他に例を見ない画期的な作品である。【北川 透】。…
※「マンフレッド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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