ファウスト(英語表記)Faust

翻訳|Faust

デジタル大辞泉 「ファウスト」の意味・読み・例文・類語

ファウスト(Faust)

15世紀末から16世紀にかけて、ドイツに実在したという錬金術師ファウストの事跡をもとに形成された民間伝説の主人公。博学で、悪魔との契約で魔力を得、享楽と冒険の遍歴生活を送るが、神に背いた罰で破滅する。
ゲーテの戯曲。二部からなる。第一部は1808年、第二部は32年刊。の伝説に取材。ファウスト博士が、悪魔メフィストフェレスと魂をけた契約をし、世界を遍歴する物語。第一部ではグレートヘンとの悲恋、第二部では理想の国家建設への努力と、純粋な愛によって救われた魂の昇天が語られる。
グノー作曲のオペラ。全5幕。1859年パリで初演。に基づく。

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精選版 日本国語大辞典 「ファウスト」の意味・読み・例文・類語

ファウスト

  1. [ 一 ] ( Faust ) 一六世紀ドイツの伝説中の人物。一五世紀末から一六世紀にかけて実在した錬金術師ゲオルク=ファウストに、種々の魔術伝説が結びついて形成された人物で、悪魔と契約を結び、その魔力によって、豪奢と快楽を手に入れるが、契約期限が切れると悲惨な最期をとげたといわれる。「ファウスト博士物語」として一六世紀末に集成され、イギリスの劇作家マーローの「フォースタス博士の悲劇」で初めて文学に登場した。後にゲーテ、トーマス=マン、バレリーらの文学作品やグノー、ベルリオーズ、リストらの音楽作品の素材となった。
  2. [ 二 ] ( 原題[ドイツ語] Faust ) 戯曲。ゲーテ作。二部から成り、第一部は一八〇八年刊、第二部は一八三二年刊。ファウスト伝説に取材。究理に絶望した学者ファウストが悪魔メフィストフェレスと賭けをし、欲望と快楽を知り、やがて罪におちるが、少女グレートヘンへの天上の愛によって救われるまでを描く。作者の代表作で、ドイツ近代文学最大の作品とされる。
  3. [ 三 ] ( 原題[ドイツ語] Faust ) 歌劇。グノー作曲。五幕。一八五九年パリで初演。[ 二 ]に基づき、バルビエとカレが台本を合作。マルガレーテの「糸紡ぎの歌」や「兵士の合唱」がよく知られている。

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改訂新版 世界大百科事典 「ファウスト」の意味・わかりやすい解説

ファウスト
Faust

16世紀初頭のドイツに出現し,やがて伝説上の主人公となった魔術師。伝説の上では,ヨハネス(ヨハン)・ファウストJohannes Faustとして登場するが,実在のファウストのほうの名は,ゲオルクだったといわれる。ゲオルク・ファウストGeorg Faustは,1480年ころに生まれ,ハイデルベルクなどで神学を学び,各地を遍歴,ルネサンス期の自然哲学の知識を身につけ,人文主義者と交わった。彼の人物像は,すでに生前からさまざまな魔術師の伝説と混同されており,さらに彼の突然の死(1536-40年ころ)が,悪魔が彼の生命を奪ったとする伝説に拍車をかけることとなった。1587年にフランクフルトで出版されたシュピース民衆本の中ではじめて伝説上のファウスト,すなわちヨハネス(ヨハン)の生涯が物語られる。そこでは,ファウストは飽くことを知らぬ生の享楽と無限の知的好奇心を満足させるため悪魔に魂を売り渡す。悪魔は彼に魔術の世界を開く鍵を伝授し,数々の奇跡を実行する能力を彼に授けたのである。これに続いてまずイギリスのC.マーロー(1588)が,ドイツではレッシング(断片),ゲーテ,F.M.クリンガー(1791),N.レーナウ(1836),ハイネ(1851,バレエ台本),20世紀に入って,トーマス・マンの《ファウスト博士》(1947),バレリーの《モン・フォースト》(1946)がこのテーマを扱い,ファウスト伝説を豊富にした。ファウスト〈テーマ〉は救済型と破滅型に分かれるが,ゲーテのファウストのみが救済され,他はそれぞれの時代思潮からとられたテーマに従って一般に破滅型である。多くの音楽家もまたそれぞれ重要なファウストをテーマとする作品によってこの伝説を一般化するのに貢献した。絵画ではドラクロア(1825)がファウストの最も情熱的な解釈者として有名である。

 マーローのファウスト劇は,民衆本の茶番的要素が多く含まれているが,権力への意志と容赦なき罰との間の悲劇となっている(《フォースタス博士》)。ゲーテのファウスト劇は1773年の《ウルファウスト》をもって始まり,90年に《ファウスト断片》として引き継がれ,《ファウスト》第1部は1808年に出版された。ここではファウストはメフィストフェレスMephistophelesの魔術の力を借りて若がえり,清純な庶民の娘グレートヒェンGretchenを誘惑し,生まれた子どもとともに彼女を捨ててしまう。嬰児殺しの罪でグレートヒェンはファウストの名を呼びながら死刑に処せられるが,悔悟によって堕地獄から救われる。ファウストは彼を動物性へと陥れると主に誓ったメフィストと,彼自身の力によってその救済を確保する手段を彼に許した神との間で,いわば善悪の間に永遠に引きさかれた〈人間の状況〉のシンボルとなっている。32年に出版された《ファウスト》第2部は詩人ゲーテの成長の各段階を反映し,第1部よりはるかに象徴性の強いオペラ風のものとなっている。第1部の外部に向かう行動意欲,生の享楽といった主観的自我拡大の情熱的な努力に対し,第2部は,宮廷,母たちの国,ワルプルギスの夜,ヘレナ悲劇,将軍ファウストなどの場に見られるように,客観的な世界獲得の方向が顕著である。ファウストの死も,グレートヒェンの祈りによる救済として,人間の努力の彼岸にある超越的な恩寵による結末である。第3幕のヘレナの場では,ファウストと美の根源としてのヘレナの結婚を通じて,時空を超えた,北方と南方,ギリシア古代と中世ドイツとの壮大な象徴的結合が映像化されている。

 20世紀のファウスト劇では,T.マンの《ファウスト博士》の場合,主人公である現代のファウスト作曲家レーバーキューンは,その創作にあたって悪魔から逆に魂(情熱)を吹き込まれねばならず,バレリーの《モン・フォースト》では,本来の術策が古びてしまった悪魔と主人公ファウストとの古来の役割は交換されてしまう。両者ともに,魂を喪失した現代におけるファウスト精神の意味が,それぞれの個性的表現を通じて強烈に提示されている。とりわけマンの場合,ドイツの20世紀半ばの社会・政治,そして文化的,精神的な危機状況がレーバーキューンの造形に色濃く反映されており,マンの最後の大作であった。
執筆者:

ファウストを題材とした音楽作品は,劇音楽,声楽,管弦楽曲と幅広くあり,ゲーテの《ファウスト》によるものが最も多い。

(1)ゲーテ以前の民話によるものにシュポーア作曲のオペラ《ファウスト》(1813)があり,1816年プラハで初演された。

(2)ゲーテによるもの (a)ベルリオーズが1846年パリのオペラ・コミック劇場で演奏会形式で上演した劇的伝説《ファウストの劫罰(ごうばつ)》(1846)。ゲーテの作品からいくつかのエピソードを結び合わせたもので,比類ない管弦楽技法で幻想的情景をみごとに描いている。

(b)シューマンの独唱・合唱・管弦楽のための《ゲーテのファウストからの情景》(1853)。10年の歳月をかけた,序曲と3部からなる作品。ドイツ・ロマン派特有の和声感をみなぎらせた内面的,重厚な音楽。

(c)グノーの5幕8場のオペラ《フォースト》。ゲーテの第1部から恋愛場面を抽出してJ.バルビエとM.カレー共作のフランス語台本によって作曲,1859年(改訂版1869)パリのテアトル・リリックで初演。美しい旋律で人心を捕らえることに優れていたグノーは,バレエ《ワルプルギスの夜》などを挿入することで当時の聴衆の好みに応え,最も人気の高いファウスト劇となっている。ドイツではゲーテの原作から離れているという理由で《マルガレーテ》の題名で上演される。日本初演は1919年ロシア歌劇団による。

(d)ボーイトは自作のイタリア語台本による《メフィストフェレ》の題名でプロローグエピローグをもつ4幕8場のオペラを作曲,1868年ミラノのスカラ座で初演。ワーグナー信奉者であったボーイトは,従来のイタリア歌劇の作劇法から脱却した壮大な劇的作品として構想したが,ゲーテの《ファウスト》を最も忠実にまんべんなく描き出そうとしたために長大なものとなり,75年短縮・改訂した。

(e)20世紀の代表的なものにはブゾーニのオペラ《ドクトル・ファウスト》がある。ブゾーニ自身の台本で作曲。未完成部分は弟子のヤルナハPhilipp Jarnach(1892-1982)によって完成,1925年ドレスデンで初演された。ゲーテの作品から語法など参照してはいるものの,題材はファウスト伝説や伝統的人形劇によっている。神秘的・象徴的な台本に加えて複雑な和声を多用,対位法的で非ロマン的な論理性に貫かれた音楽である。

(f)ゲーテの詩劇の登場人物の性格描写を各楽章で行ったリスト作曲の《ファウスト交響曲》(1857),そのほかゲーテの《ファウスト》の中の歌詩を選んで,ベートーベンシューベルト,メンデルスゾーン,ムソルグスキーらが作曲している。リストには,N.レーナウの詩による管弦楽曲《レーナウの“ファウスト”からの二つのエピソード》(1860以前)もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファウスト」の意味・わかりやすい解説

ファウスト(ゲーテの悲劇)
ふぁうすと
Faust

15、16世紀のドイツに実在した人物ゲオルクまたはヨハネス・ファウストの名前と結び付いたファウスト伝説、およびとくにゲーテの悲劇『ファウスト』の主人公の名。また「ファウスト的人間」などのようにドイツ民族の特質を言い表す類型的概念としても用いられる。

 ゲーテの悲劇『ファウスト』は、ファウスト伝説を素材にしているとはいえ、それと厳密に区別されなければならない。この作品の執筆開始は『若きウェルテルの悩み』(1774)とほぼ同じ時期にさかのぼり、ワイマール移住直後の1775年12月に、ゲーテは早くもその一部を友人たちの前で朗読している。その後10年を経てローマに滞在中、ゲーテは作品を完成しようとして果たさず、90年に『ファウスト断片』として印刷に付してしまった。『ファウスト』全編の第一部が出版されたのは1808年のことであり、第二部は作者の死後(1832年3月22日没)、その年の秋に初めて公表された。ゲーテがもっとも苦心したのは、悪魔に魂を売って悲惨な最期を遂げる伝説上のファウストにいかにポジティブな近代的性格を賦与するかということであった。また第一部の個性的特徴と第二部の類型的特徴を内容・形式の面でいかに両立させるかということであった。

 ゲーテがこうして60年の歳月を費やして完成した悲劇『ファウスト』には、「献詩」「舞台での前戯」「天上の序曲」という三つの詩的な序章があり、これらのあと第一部の小世界、第二部の大世界において主人公の悪魔メフィストフェレスとの遍歴の旅が繰り広げられる。認識と活動の不一致に悩む近代人ファウストは「世界を奥の奥で統(す)べているもの」を究めえないことに絶望し毒杯を仰ごうとするが、復活祭の鐘の音で呼び覚まされた幼時の追憶によって自殺を思いとどまる。そしてその後メフィストフェレスを道連れに、市民の娘グレートヒェンとの恋愛、皇帝の居城での宮廷生活、古代ギリシアの神話的世界、専制君主としての干拓事業などを次々に体験していくのである。悪魔と結託しているためつねに罪過を犯さざるをえないファウストが最後に救われるのは、「よい人間はたとえ暗い衝動に促されても、正しい道を忘れることはない」という主のことばにみられるようなゲーテの偉大なオプティミズムのためである。永遠に努力するファウスト的人間がヨーロッパ人、とりわけドイツ人の原型であるというような見方はこのような人間観に根ざしているが、「ファウスト的衝動」の過大評価は、20世紀前半のドイツ現代史に多くの禍根を残すことになった。

[木村直司]

音楽

ゲーテの『ファウスト』を基にした音楽作品は数多く、それらの大半は19世紀中期に生み出されている。なかでも代表的なのは、フランスのグノーが1859年に完成した同名のオペラ(全五幕)である。バルビエとカレの台本によるこの作品は原作の第一部に基づき、美しい旋律と色彩豊かで洗練された管弦楽法により、フランス・オペラを代表する名作の一つに数えられている。マルガレーテの歌う「宝石の歌」はとくに有名で、のちに付け加えられたバレエ音楽も人気が高い。またアリゴ・ボイトが自らの台本を基に1868年に完成したオペラ『メフィストフェレ』は原作の第一部と第二部によるが、歌劇化にあたって多少手が加えられている。ワーグナーの影響を受けた効果的な舞台づくりは、ベルディ以後のイタリア・オペラに新しい方向を示したといえよう。なおオペラとしては、ほかにフェルッチョ・ブゾーニが未完のまま残し、弟子によって1925年に完成された『ファウスト博士』があり、またベートーベンもこの作品に基づいた歌劇を構想していたが、実現せずに終わった。

 歌劇以外にも『ファウスト』による作品は数多い。『ファウストの却罰(ごうばつ)』は、ベルリオーズが1846年に完成した独唱、合唱と管弦楽のための「劇的物語」(作品24)で、原作のフランス語訳を台本とし、「ハンガリー(ラコッツィ)行進曲」などの有名な管弦楽小品を含む。『ゲーテの〈ファウスト〉からの場面』は、ローベルト・シューマンが1853年に完成した合唱と管弦楽のためのオラトリオ。『ファウスト交響曲』はリストが1854年に作曲した三楽章からなる交響曲で、第一楽章「ファウスト」、第二楽章「グレートヒェン」、第三楽章「メフィストフェレス」と、各楽章に登場人物の性格があてられ、標題音楽的性格を強めている。また、マーラーが交響曲第八番変ホ長調「一千人の交響曲」(1906)の第二部テキストに、終幕の場を用いていることも珍しい例としてあげられよう。

[三宅幸夫]

『道家忠道訳編『ファウスト その源流と発展』(1974・朝日出版社)』『小塩節著『ファウスト――ヨーロッパ的人間の原型』(1972・日本YMCA同盟出版部)』『木村直司著『ゲーテ研究』正続(1976、83・南窓社)』『『ファウスト』全二冊(相良守峯訳・岩波文庫/手塚富雄訳・中公文庫)』


ファウスト(ロック・バンド)
ふぁうすと
Faust

ドイツのロック・バンド。バンド名のファウストはドイツ語で「拳骨」の意味。さまざまな実験が繰り返された1970年代ジャーマン・ロック・シーンのなかでも、表現がもっとも先鋭的であったバンド。彼らが行った通常の楽音以外の音(ノイズ)の積極的導入、複雑なエフェクト処理と卓抜したエンジニアリングによる新しい音響の創出、手法としてのサンプリング、カットアップ、コラージュ等々は、1980年代なかば以降ヒップ・ホップとエレクトロニクスを軸に更新を続け、ファウストの音楽は新しいスタイルの先例となった。

 1969年、二つの異なる実験音楽のバンドが合体してファウストは結成された。音楽・映画ジャーナリストであったウーベ・ネッテルベックUwe Nettelbeckが、「第二のビートルズをつくろう」とドイツ・ポリドール社を説得して巨額の資金を提供させ、1971年、ネッテルベックをプロデューサーにたてファウストのプロジェクトは具体的にスタートした。彼らは全員で、ブレーメンとハンブルクの間にあるビュンメという小さな町の廃校を改築したスタジオ兼住居に合宿しながら、自由にリハーサルやテープづくりを開始する。結成時のメンバーはウェルナー・ディーアマイアーWerner Diermaier(ドラム)、ジャン・エルベ・ペロンJean-Hervé Peron(ギター、ベース)、ハンス・ヨアヒム・イルムラーHans-Joachim Irmler(キーボード)、ルドルフ・ゾスナRudolf Sosna(ギター)、グンター・ビュストフGunter Wüsthoff(サックス)、アルヌルフ・マイフェルトArnulf Meifert(ドラム)の6人。これに、ポリドールのエンジニアだったクルト・グラウプナーKurt Graupnerが専属のサウンド・エンジニアとしていっしょに寝起きする形で、バンドが気ままに出すアイデアを丹念に記録し、編集していった。1971年にポリドールから『ファースト・アルバム』をリリースし、デビュー。無数のアイデアとフラグメントのつぎはぎからなるニヒルな音響群は、エンジニアが実際の演奏者と同等に「演奏する=音を操作する」という1990年代以降の状況を予言していた。だが、そのサウンドはあまりにも斬新すぎたため、1972年のセカンド・アルバム『ソー・ファー』では、「あまりにも遠く(so far)に行きすぎるな」というネッテルベックの指示で、4ビートなどノーマルな音楽語法の曲が大半を占め、ポップ・ミュージックとしての体裁を表面上は整えることとなった。しかし、細部に注ぎこまれた毒気とアナーキックな情動は隠しようもなく、ファースト・アルバム同様、このバンドがほかのロック・バンドとはまったく別の世界を目ざしていることを表していた。

 結局この2枚の商業的失敗によってポリドールから契約を切られたファウストは、イギリスで立ち上げられたばかりのバージン・レコードと新たに契約を結び、1973年には『ザ・ファウスト・テープス』The Faust Tapesおよび『』を発表。前者は、それまでに録りためていた音源を編集して、プロモーションのために超廉価でリリースされたものだが、ファースト・アルバムと同様の破壊性に満ちていた。後者は、バージンのマナー・スタジオで録音されたものだが、メンバーのあずかり知らぬ形で適当にまとめられており、またバンド内のモチベーションそのものの低下もあり、かなり毒が薄まっていた。結局これを最後に、ネッテルベックとグラウプナーはファウストを離れ、その後まもなくバンドも解体する。

 しかし、1980年代末期に、ディーアマイアー、ペロン、イルムラーが活動を再開し、『リアン』Rien(1995)や『ユー・ノウ・ファウスト』(1996)、『ラッビバンド』(1999)などを発表し、ライブも頻繁に行った。『リアン』を、シカゴ音響派の頭目ジム・オルークJim O'Rourke(1969― )がプロデュースしていることにも、ファウストの今日性、あるいは超時代性が示されている。

[松山晋也]

『明石政紀著『ドイツのロック音楽 またはカン、ファウスト、クラフトワーク』(1997・水声社)』

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百科事典マイペディア 「ファウスト」の意味・わかりやすい解説

ファウスト

ゲーテの戯曲。1773年に《ウル(初稿)ファウスト》,1790年に《ファウスト断片》が書かれ,1808年《ファウスト》第1部,1831年《ファウスト》第2部として完成。ファウスト伝説では単なる魔術師であった主人公は,この作品では絶対を探求する学者となり,たゆまぬ努力と社会に善をなそうとする意志と純粋な愛によって,悪魔メフィストフェレスとの契約にもかかわらず,最後にその魂は救われる。第1部は,メフィストフェレスとの出会い,グレートヒェンとの恋とその死など,善と悪をめぐるファウストの人間的な葛藤が描かれ,第2部はより象徴的な,世界観の獲得がテーマで,ギリシア神話の美女ヘレネとの結婚など,ファウストの行為と,その救済によって,人間の生き方を示そうとしている。
→関連項目ドラクロアレーゼドラマ

ファウスト

1500年前後のドイツに実在し,自然学的知識を利用して魔術を行ったとされる人物ファウストGeorg Faustの所行を核に,古代以来の種々の魔術師伝説が加わって形成された伝説の主人公。伝承人名としてはヨハネス(ヨハン)・ファウスト。1587年に最初の刊本(民衆本)が出版され,これに続いてC.マーロー,レッシング,ゲーテ,新しくはT.マン,バレリーらの作品が加わって,文芸上の一大モティーフとして発展した。ベルリオーズ,シューマン,グノーらの音楽作品も多数。生の享楽と知的好奇心を追求するあまり,悪魔に魂を売り渡す主人公の破滅と救済の物語は,メフィストフェレス,グレートヒェンといった脇役ともども,〈近代人〉の運命を示すもの。
→関連項目エスプロンセーダファウスト

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファウスト」の意味・わかりやすい解説

ファウスト
Faust

ドイツの詩人,小説家,劇作家ゲーテの詩劇。第1部 1808年,第2部 32年刊。 24歳の頃にファウスト伝説に触発されて筆を起した『初稿ファウスト』 Urfaust (1775) から約 60年にわたって書き進められた畢生の大作。無限の探究精神をもったファウストは,あらゆる学問にも満足せず,悪魔メフィストフェレスと契約を結び,宇宙の神秘を探り人生を味わいつくして,「ある瞬間に向って,とどまれ,お前はいかにも美しい」と言いうるなら,魂を引替えにしてもよいとした。第1部は純真な乙女グレートヒェンとの恋と赤子殺しの罪による彼女の刑死をもって終る。第2部では大世界に乗出したファウストがさまざまな苦難を経て現世的な国家経営に満足を得て魂の救済も得る。ゲーテの思想と文学が混然と集約された代表作で,世界文学史上の傑作。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ファウスト」の解説

『ファウスト』
Faust

悪魔に魂を売って魔法を行ったというファウスト伝説にもとづいて書かれた文学。代表的にはゲーテの『ファウスト』がある(第1部1808年,第2部1831年)。なおファウストは1540年頃に死んだ実在のドイツの錬金術師。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ファウスト」の解説

ファウスト
Faust

近世ドイツのファウスト伝説を素材にしたゲーテの戯曲
1801(第1部)・31(第2部)年刊。2部からなる。ファウスト博士が悪魔メフィストフェレスの誘惑によって魂の遍歴をする物語。世界文学の傑作とされる。レッシング・グノーらもこの題材を扱った。

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デジタル大辞泉プラス 「ファウスト」の解説

ファウスト〔オペラ〕

フランスの作曲家シャルル・グノーのフランス語による全5幕のオペラ(1859)。原題《Faust》。ゲーテの同名の戯曲に基づく。

ファウスト〔映画〕

2011年製作のロシア映画。監督:アレクサンドル・ソクーロフ。第68回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。

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世界大百科事典(旧版)内のファウストの言及

【度量衡】より

…ただしこの単位の実体もあいまいであって,尺についていえばおよそ20~32cmにわたっていた(一般に時代が下るにつれ実長はのびた)。 (イ)の系統に属するものは,以上のほかにもいろいろあり,4本の指を並べた幅(日本のつか,イギリスのパームpalmなど),親指の幅(中国の寸,ドイツのダウメンDaumen,オランダのドイムduimなど),人差指または中指の幅(イギリスのディジットdigit,フィンガーfingerなど),げんこつの大きさ(ドイツのファウストFaust)その他,実例はきわめて多い。ただしそれらすべてが独立に基準として採用されたわけではなく,〈パームはディジットの4倍〉のように,いわゆる倍量または分量として間接的に定められた場合もあった。…

【カーリダーサ】より

…ゲーテがその独訳を読んで賛辞を述べたことはよく知られている。彼は《ファウスト》の序曲の構想を《シャクンタラー》の序幕から得たといわれる。 カーリダーサの戯曲作品としては,そのほかに,天女ウルバシーとプルーラバスとの恋愛を主題とする,5幕よりなる《ビクラマ・ウルバシーヤ》と,アグニミトラ王とビダルバ国の王女マーラビカーとの恋愛を主題とする,5幕よりなる《マーラビカーとアグニミトラ》とがあり,それぞれ傑作とされている。…

【転身物語】より

…チョーサー,シェークスピア,ゲーテ等後世の偉大な詩人にとって《転身物語》は愛読書の一つであった。とくにゲーテは,美しい愛の物語の主人公フィレモンとバウキスを《ファウスト》第2部で登場させている。また,ルネサンス以降はいわば〈古代ギリシア・ローマ神話事典〉として利用されるかたわら,多くの画家に題材を豊富に提供した。…

【ドイツ文学】より

…木下杢太郎がこれをひき継ぎ,その世紀末的土壌の上に〈パンの会〉や〈スバル〉などの耽美的情調の文学が日本に開花した。また森鷗外によるゲーテの《ファウスト》の完訳(1913)は,日本の読者にドイツ文学の代表作を提供するものとなった。生田長江の《ツァラトゥストラ》訳(1911)をはじめとするニーチェの翻訳紹介も大きな反響をよびおこし,とりわけ萩原朔太郎にその影響が認められる。…

【人形劇】より


[近・現代の人形劇]
 18世紀後半から20世紀初めへかけて,多くの芸術家が人形劇を愛した。最も有名なのは,J.W.ゲーテの戯曲《ファウスト》が古い人形劇の《ドクトル・ファウスト》から生まれたことだ。ゲーテは祖母からマリオネットを贈られ,4歳のとき《ダビデと巨人ゴリアテ》を見た。…

【ファウスト】より

…16世紀初頭のドイツに出現し,やがて伝説上の主人公となった魔術師。伝説の上では,ヨハネス(ヨハン)・ファウストJohannes Faustとして登場するが,実在のファウストのほうの名は,ゲオルクだったといわれる。ゲオルク・ファウストGeorg Faustは,1480年ころに生まれ,ハイデルベルクなどで神学を学び,各地を遍歴,ルネサンス期の自然哲学の知識を身につけ,人文主義者と交わった。…

【メフィストフェレス】より

…ゲーテの《ファウスト》に登場する悪魔。メフィストと略称される。…

【ワルプルギスの夜】より

…ドイツの民間伝承で五月祭(5月1日)の前夜をいう。この夜,魔女たちの集会(サバト)がハルツ山地の最高峰ブロッケン山で開かれ,魔王を囲んでの乱痴気騒ぎが繰り広げられるとされ,とくにゲーテ《ファウスト》における描写で有名である。その名は,ボニファティウスのドイツ伝道に従ったイングランドの修道女ワルブルガWalburga(?‐780ころ)に由来する。…

【トリテミウス】より

…熱狂的なカトリックの信仰に生き,修道院改革,写本の収集などに努めたが,世界を支配する七惑星などについて考える占星術師,魔術師的側面ももっていた。ファウスト伝説のモデルとされる歴史上の人物J.G.ファウストについて興味ある書簡の報告(1507)を残している。パラケルススの初期の教師の一人で,パラケルススの後年の思想にも影響を与えたといわれる。…

【不老不死】より

…また不老ないし不死の獲得が人間にとりいちがいに好ましい状態であるとも断言できず,事実ヨーロッパでは悪魔に魂を売ったり神罰を受けた者は死ぬことができなくなり,永遠にこの世をさすらう。〈さまよえるユダヤ人〉の伝説や,C.R.マチューリンのゴシック・ロマンス《放浪者メルモス》の主人公などがその例で,ファウスト伝説もこれに含まれよう。しかし一般には,不老と不死を同時に獲得することが幸福の永続を意味すると考えられ,古来盛んにその方法が探究された。…

※「ファウスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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