改訂新版 世界大百科事典 「ムカシエビ」の意味・わかりやすい解説
ムカシエビ (昔蝦)
原エビ上目(厚エビ上目,ムカシエビ上目)ムカシエビ目Bathynellaceaの小型甲殻類の総称。地下水や洞穴内の淡水にすんでいる。このため眼をもたない。体は細長く体長1~2mmくらい,白色で半透明。原エビ類は一見,端脚類のように見えるが,原エビ類では胸脚が遊泳用の外肢をもち,二枝型をしており,腹部には腹肢をもつものと,もたないものとがある。尾節は尾肢とともに尾扇をつくるが,尾節に尾叉のあるものもあるなど,軟甲亜綱の一員であることを示すと同時に,原始的な形をとどめている。
原エビ上目ははじめ,古生代の地層から出た化石種だけからなるアナスピデス目のみを含んでいたが,1892年にタスマニアの高山(約1200m)の渓流の水たまりにすむ,体長5cmほどの現生種Anaspides tasmaniaeが発見された。アナスピデス類は体長1~5cmと大きく,眼をもっている。今日までに8現生種が発見されているが,うち1種が北アメリカ産であるほかは,すべてタスマニア産である。この類にごく近縁の現生種からなる2目があり,スティゴカリス目には4種,南アメリカから知られている。ムカシエビ目では,1882年に最初の種類Bathynella natusがプラハの井戸から発見されて以来,今日までに,世界各地より約130種が記載された。日本からは20余種が知られ,このうちエゾムカシエビB.yezoensisは北海道の地下水,サイコクムカシエビB.inlandicaは近畿,中国,四国地方の井戸水およびセトゲオオムカシエビAllobathynella carinataは東京の地下水から採集されている。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報