改訂新版 世界大百科事典 「ムラサキケマン」の意味・わかりやすい解説
ムラサキケマン
Corydalis incisa (Thunb.) Pers.
平地や低山の林縁や草地に普通にみられるケシ科の二年草。北海道~沖縄,中国,台湾に分布する。軟弱な方形の茎が直立し,高さ30cm内外。葉は互生し,不規則に2回3出状に分裂する。4~6月ころ,茎頂に長さ10cmほどの総状花序をつけ,赤紫色の花が多数,横向きに咲く。花は4枚の花弁からなる唇形花で,距があり,長さ10~20mm。6本のおしべは3本ずつ合着し,それぞれの両側の2本は半葯のみに退化している。果実は扁平な線状披針形の蒴果(さくか)で,熟すとはじけ,光沢のある黒色の小種子が飛び散る。種子にはアリの好む付属体(カルンクル)があり,アリにより散布される。全草にプロトピンprotopineなどのアルカロイドを含み,有毒。中国では,殺虫剤あるいはタムシなどの外用薬として用いる。
本種の属するキケマン属Corydalisにはユーラシアを中心に約200種あり,日本には13種が産する。塊茎を有する多年草(ジロボウエンゴサクなど)と,塊茎のない二年草があり,後者には,本種のほか,キケマンC.heterocarpa Sieb.et Zucc.var.japonica Ohwi,ヤマキケマンC.ophiocarpa Hook.et Thoms.などがある。キケマンは関東~九州の低地に分布し,黄色花をつけ,蒴果は狭披針形。ヤマキケマンは関東~四国の山地に生育,黄緑色の花をつけ,線形の蒴果は著しく屈曲して長さ3cmになる。いずれも有毒である。しかし,中国産のC.edulis Maxim.は学名の種小名のように食用に供される。
執筆者:森田 竜義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報