ムルジア派(読み)むるじあは(英語表記)Murji'a

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムルジア派」の意味・わかりやすい解説

ムルジア派
むるじあは
Murji'a

イスラム神学確立以前の神学派の一つ。9世紀後半にクーファを中心におこった。ハワーリジュ派は、大罪を犯した信者(ムスリム)はもはや信者ではなく不信者(カーフィル)であるので、彼らに対しては聖戦(ジハード)を行わなければならないと唱えたが、これに対しムルジア派は強く反対し、大罪を犯しても信仰者は信仰者であると主張した。またハワーリジュ派が、ムアーウィヤ(ウマイヤ朝の創始者)は大罪を犯したのでウマイヤ朝に従う必要はないと反旗を翻したのに対し、ムルジア派はウマイヤ朝体制を支持した。ムルジアというアラビア語は「延期」(イルジャー)に由来する。罪人が地獄に行くかどうかの判断は、最後の審判の日まで延期されると考えたからとも、あるいは第一次イスラム内乱(アリーとムアーウィヤの戦い)に対する判断を延期したからだともいわれる。このように、シーア派過激派やハワーリジュ派の分派活動に対し、ハナフィー学派に近い政治的穏健派立場をとったので、後のスンニー派ウラマーの先駆者として考えられている。

[竹下政孝]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムルジア派」の意味・わかりやすい解説

ムルジア派
ムルジアは
Murji'ah

初期イスラム神学におけるハーリジー派のウマイヤ朝攻撃から,ウマイヤ朝の立場を弁護する役割を果した神学派である。ハーリジー派は,大罪を犯した人間を不信者とみなして殺害してもよいと主張したが,ムルジア派はたとい大罪を犯した人間でもイスラムの信仰を告白するかぎり,信者として扱うべきで,真の決定は最後の審判の日に神によって行われると主張する。この主張によって,ウマイヤ朝のカリフの犯した罪に対する決裁を延長し,現世におけるカリフの正当性を擁護しようとした。ムルジア派という名称は「延期する」という意味の言葉に由来する。

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