モッラー・サドラー(読み)もっらーさどらー(英語表記)Mullā adrā

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モッラー・サドラー」の意味・わかりやすい解説

モッラー・サドラー
もっらーさどらー
Mullā adrā
(1571ころ―1640)

イスラム教シーア派の神秘哲学者。モッラー・サドラーは通称で、本名はサドルッディーン・ムハンマド・シーラーズィーadr al-īn Muammad al-Shīrāzīという。イラン・サファビー朝期に発展したシーア派文化の一翼を担う神秘思想家の代表者である。その教説はイブン・アラビーの神秘思想、スフラワルディーの照明哲学、イブン・シーナーの新プラトン主義的アリストテレス哲学を継承・統合し、深い神秘家的洞察を厳格な合理的推論を通して表現したものである。世界の諸存在物は神という純粋存在がさまざまな強弱の程度で顕現したものであり、その存在物はすべてその発出の始源へ向かう帰昇運動のなかに位置づけられる。復活の教義もこの運動のなかで理解され、肉体、霊魂、精神という段階を経て人間の完成、すなわち神への帰還が実現するとする。『精神的な四つの旅についての超越的哲学』など多くの著作があり、後世に大きな影響を与えた。

鎌田 繁 2018年4月18日]

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改訂新版 世界大百科事典 「モッラー・サドラー」の意味・わかりやすい解説

モッラー・サドラー
Mollā Ṣadrā
生没年:1571-1640

十二イマーム派神学者,哲学者,神秘主義思想家。〈神智学者の長Ṣadr al-Muta'allihīn〉とあだ名された。十二イマーム派の神学とイブン・アルアラビーワフダ・アルウジュード(存在の単一性論)および,スフラワルディーの〈東方照明哲学〉,そしてイスラム神秘主義とを総合させたペルシア・イスラム思想の完成者である。神秘主義修行道に基づいた長年の瞑想の結果,モッラー・サドラーは絶対者である神を〈輝ける真実在ḥaqīqanūrānīya〉として観照する。そして,全宇宙の諸存在はこの〈輝ける真実在〉の自己開示の結果であるとみる。この自己開示は人間の認識レベルに対応するように階層的構造を呈している。しかし,この階層的構造は静止的でなく,下降階層と上昇階層が表裏一体となるものと把握されて動的であるとみられている。根源的唯一存在である〈輝ける真実在〉からの不断の聖なる溢出により,存在は多様化するが,多様性は唯一者の展開相なのである。このような動的溢出の過程に出現する存在者は,不断に変化・更新するとみなされる。モッラー・サドラーはこの変化・更新を,〈実体的運動〉という観点から説明する。それゆえ,変化する存在者の自己同一性を確立しうるのである。このような神体験と形而上学,自然観を,モッラー・サドラーは絶えずコーランおよび十二イマーム派の12人のイマームの語録に依拠しながら解説している。彼によって確立された思想は,それ以後の十二イマーム派宗教思想活動の傾向を決定した。主著は《四つの旅》。
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世界大百科事典(旧版)内のモッラー・サドラーの言及

【イスラム哲学】より

…このような十二イマーム派哲学の形成に寄与した人は,ミール・ダーマードMīr Dāmād(?‐1631)である。さらにモッラー・サドラーは,ミール・ダーマードの業績を引き継ぎ,これを完成の域に到達させたのである。十二イマーム派の教学の中の一部として生命を維持し続けたイスラム哲学の伝統は,近世のサブザワーリーSabzawārī(1778‐1878)によりさらに洗練・深化され,現代のアーシュティヤーニーĀshtiyānī(1921‐ )に受け継がれている。…

※「モッラー・サドラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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