もののあわれ

山川 日本史小辞典 改訂新版 「もののあわれ」の解説

もののあわれ

元来「あはれ」は感動詞として用いられ,中古以来和歌的な叙情を含んだ美の概念として用いられてきた。「土佐日記」に「楫取(かじとり),もののあはれも知らで」と使われているのが最古の例。「毎月抄」に「やさしくものあはれに詠む」のが和歌であると定義され,定家仮託歌論書では「物哀体」という歌体がたてられた。「徒然草」にも「物のあはれは秋こそ勝れ」とある。しかし,これがとりざたされるのは,近世になり本居宣長(もとおりのりなが)が「源氏物語」をもののあわれ文学としてとらえたことによる。宣長はもののあわれによって文学の本質をとらえようとした。近代になり和辻哲郎らが宣長の考え方を批判し,現在では各時代・各作品のなかのもののあわれをとらえなおす試みがなされている。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「もののあわれ」の意味・わかりやすい解説

もののあわれ

平安時代の文学,生活の美的理念本来は,もの (対象) によって人の心に呼起されるしみじみとした感動を意味する。人生の不如意に基づく哀感基調とし,感情主体によって人事,自然界の事象が共感されるとき,そこに対象と主体の調和が意識され,「もののあわれ」が成立する。本居宣長は『源氏物語』の本意が「もののあわれ」を知らしめることにあるとして,仏教的,儒教的立場からする倫理的評価を批判したが,さらに進んで,「もののあわれ」を日本文学一般の理念であると主張した。日本文学にあっては,しみじみとした調和的な情趣を優美なものとして指向するものが多く,宣長説は一面の妥当性をもつ。

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