モントリオール条約(読み)もんとりおーるじょうやく(その他表記)Convention for the Unification of Certain Rules for International Carriage by Air

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モントリオール条約」の意味・わかりやすい解説

モントリオール条約
もんとりおーるじょうやく
Convention for the Unification of Certain Rules for International Carriage by Air

国際線を運航する航空会社の運送責任や損害賠償範囲などを定めた条約。国際線運航に関する旧条約・議定書が現代情勢にそぐわなくなっていたため、国際民間航空機関ICAO)が国際ルールの近代化と統合を図る目的で1999年5月にモントリオールで作成したことから、こうよばれる。正式名称は「国際航空運送についてのある規則統一に関する条約」で、2003年11月に発効した。乗客死亡した場合の賠償上限を撤廃し、航空会社に過失がない場合でも2015年3月時点で11万3100SDR(SDRは国際通貨基金の特別引出権、邦貨換算約1800万円)まで賠償するよう義務づけている。旅客や航空会社の国籍とは関係なく、出発地と到着地がともに加盟国であれば条約は適用される。これにより、乗客の居住地で裁判を起こすことも可能になった。2015年3月時点で109か国が批准しており、日本は2003年(平成15)の発効と同時に加盟した。

 国際線の乗客・手荷物・貨物の賠償については、1929年作成の国際航空運送条約ワルソー条約)や1955年作成のヘーグ議定書が国際的基準とされてきた。しかし、いずれも航空会社の保護や国際線の普及を目的とした国際ルールで、乗客が死亡した場合の賠償額が25万フラン(約280万円)に低く設定されるなど、時代にあわなくなっていた。1995年(平成7)に名古屋空港で起きた中華航空機墜落事故(乗客・乗員264人死亡)では賠償額の低さが問題となり、モントリオール条約が結ばれる下地となった。モントリオール条約では、乗客が死亡または傷害を受けた場合、航空会社の過失の有無にかかわらず賠償され、航空会社が過失のなかったことを証明できなければ、さらに所得などに応じて賠償額が上積みされる。このほか手荷物や貨物の損害、乗客の延着についても賠償額を定めている。

[矢野 武 2015年12月14日]

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世界大百科事典(旧版)内のモントリオール条約の言及

【航空機】より

…民間航空機は,外国領域において,その国の航空規則などの法令に従わなければならない。外国領空の民間航空機内での犯罪につき,1963年の〈航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約〉(東京条約)により登録国の裁判権が認められ,その後ハイジャックや航空機の安全に対する不法な行為に関するハーグ条約(1970採択)やモントリオール条約(1971採択)が成立した。【西井 正弘】。…

【ハイジャック】より

…ただ政治犯と自国民の不引渡しには問題を残している(犯罪人引渡し)。 また71年に採択され翌々年に発効したモントリオール条約は,航空機,航空施設の破壊や爆発物の持込み,その虚偽の通報をも犯罪として防止しようとする点でより広く民間航空の安全を確保しようとしているが,ハイジャックの防止からも実効性を補完させている。 日本は,1970年のよど号事件を契機に東京条約を批准し,その国内的措置として〈航空機の強取等の処罰に関する法律〉を制定し,のちハーグ条約を批准した。…

※「モントリオール条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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