日本大百科全書(ニッポニカ) 「モーラス」の意味・わかりやすい解説
モーラス
もーらす
Charles Maurras
(1868―1952)
フランスの思想家。南仏マルチーグに生まれる。「ロマーヌ」派の詩人として出発、評論集『アンティネア』(1900)にみられるように、古代ギリシアに普遍的美の極致と完璧(かんぺき)な調和をみいだし、近代の思想・文学を否定した。こうした立場はドレフュス事件の経験を通じて、金に支配される近代社会への危機意識に支えられ、精神の復権を実現しうるユートピアとしての王政復古を希求するモナルシスムに転化し、1899年思想団体「アクシオン・フランセーズ」を創始した。『知性の未来』L'Avenir de l'intelligence(1905)や『君主政治に関するアンケート』(1909)にうかがわれるその思想は、1900年代から1930年代にかけてのフランスの青春に大きな影響を与え、右翼の精神的支柱であった。第二次世界大戦中ビシー政権に協力したため、フランス解放後、終身禁錮に処せられ、1938年以来占めていたアカデミー・フランセーズ会員の座からも追われた。作品としてはほかに評論『ベネチアの恋人たち』(1902)、詩集『内面の音楽』(1925)、『わが政治思想』(1937)などがある。
[渡辺一民]
『後藤敏雄訳『ヴェネチアの恋人たち――ジョルジュ・サンドとミュッセ』(1972・弥生書房)』