ドーデ(読み)どーで(英語表記)Alphonse Daudet

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドーデ」の意味・わかりやすい解説

ドーデ(Alphonse Daudet)
どーで
Alphonse Daudet
(1840―1897)

フランスの小説家。南フランスのニームで生まれる。幸福で放浪的な幼少年期を送ったが、家業が破産したため、田舎(いなか)町アレの中学の代用教員となって自活、のち小説家、評論家の兄エルネストErnest Daudet(1837―1921)のつてでパリに出て、作家としての修業時代を過ごした。やがて詩集『恋する女たち』(1858)で名声を得たが、出身の南フランスのプロバンス地方の人情風俗を描いた短編集『風車小屋だより』(1866)で作家としての地位を確立した。ほかにこの地方に直接題材を仰いだものとして、『タラスコンタルタラン』(1872)、『アルプスのタルタラン』(1885)、『タラスコン港』(1890)からなる「タルタラン三部作」がある。陽気でおしゃべり、威勢のいいほらを吹く反面、気が弱くて人のいい南仏人の典型を戯画化したような主人公タルタランの珍妙な冒険物語は、現在でも人々によく知られている。

 1870~80年代のフランスでは、ゾラ、モーパッサンゴンクール兄弟をはじめとする自然主義小説家たちが、人生の「醜さ」「暗さ」を深刻な態度で描くことが多かったが、そのなかでドーデは、現実を直視する姿勢では彼らと一致しながら、いつもそれを南仏人独特の笑いと詩情でくるみ、弱者に対する同情を直接表現することによって、多くの読者に喜んで迎え入れられた。ドーデ自身のいうように「幻想と現実との奇妙な混合」こそ彼の作風特色といえよう。

 ほかに自伝的小説『プチ・ショーズ(おちびさん)』(1868)、プロイセン・フランス戦争やパリ・コミューンのドラマにテーマをとった短編集『月曜物語』(1873)、同時代の恋愛風俗を描いた『ジャック』(1876)、『サッフォー』(1884)、ビゼーの音楽で有名な戯曲アルルの女』(1872)などがある。なお、アクシオン・フランセーズ運動の中心人物の1人レオン・ドーデは彼の息子である。

宮原 信]

『原千代海訳『プチ・ショーズ』(岩波文庫)』『朝倉季雄訳『サフォ』(1947・文体社)』


ドーデ(Léon Daudet)
どーで
Léon Daudet
(1867―1942)

フランスの批評家。作家A・ドーデの子。パリ生まれ。反ユダヤ主義論客として世に出、ドレフュス事件を通じてモーラスに私淑、『アクシオン・フランセーズ』紙の主筆として国家主義を鼓吹する一方でいち早くプルーストを評価するなど、鋭い鑑賞眼に貫かれた皮肉な批評によって一家をなした。『幻と生者』Fantômes et Vivants(1914)、『オランダ通信』(1928)などの優れたエッセイ集を残している。

[渡辺一民]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドーデ」の意味・わかりやすい解説

ドーデ
Daudet, Alphonse

[生]1840.5.13. ガール,ニーム
[没]1897.12.16. パリ
フランスの小説家。富裕な家庭に生れたが,破産のため大学をあきらめ文学を志して 1857年パリに出,E.ゴンクールの弟子となり友となる。南フランス人らしい明晰さで事物や人生の機微を詳細に観察し,それを手帳に記して作品に活用するなど,客観性を追求したが,一方,人間に対する深い愛情があふれ,人間の愚かさや醜さを批判して皮肉るときでさえ,そこには憐憫の情が織込まれており,人間の宿命的な弱さ,不完全さに対する共感がある。文体は簡潔明快,優雅。主著,短編集『風車小屋便り』 Lettres de mon moulin (1869) ,小説『タルタラン・ド・タラスコン』 Tartarin de Tarascon (72) ,『月曜物語』 Les Contes du lundi (73) ,『ジャック』 Jack (76) ,『サフォー』 Sapho (84) ,ビゼーの曲で知られる戯曲『アルルの女』L'Arlésienne (72) 。

ドーデ
Daudet, Léon

[生]1867.11.16. パリ
[没]1942.7.1. サンレミドプロバンス
フランスのジャーナリスト,小説家。 A.ドーデの息子。医学を学んだのち新聞記者となり,C.モーラスとともにアクシオン・フランセーズに参加し,王党派国粋主義を掲げて激越な論陣を張った。文芸批評家としてプルースト,セリーヌなどを発掘。小説『シェークスピアの旅』 Le Voyage de Shakespeare (1896) や『回想録』 Souvenirs des milieux littéraires,politiques,artistiques et médicaux (1914~21) などがある。

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