フランスの小説家。南フランスのニームで生まれる。幸福で放浪的な幼少年期を送ったが、家業が破産したため、田舎(いなか)町アレの中学の代用教員となって自活、のち小説家、評論家の兄エルネストErnest Daudet(1837―1921)のつてでパリに出て、作家としての修業時代を過ごした。やがて詩集『恋する女たち』(1858)で名声を得たが、出身の南フランスのプロバンス地方の人情風俗を描いた短編集『風車小屋だより』(1866)で作家としての地位を確立した。ほかにこの地方に直接題材を仰いだものとして、『タラスコンのタルタラン』(1872)、『アルプスのタルタラン』(1885)、『タラスコン港』(1890)からなる「タルタラン三部作」がある。陽気でおしゃべり、威勢のいいほらを吹く反面、気が弱くて人のいい南仏人の典型を戯画化したような主人公タルタランの珍妙な冒険物語は、現在でも人々によく知られている。
1870~80年代のフランスでは、ゾラ、モーパッサン、ゴンクール兄弟をはじめとする自然主義小説家たちが、人生の「醜さ」「暗さ」を深刻な態度で描くことが多かったが、そのなかでドーデは、現実を直視する姿勢では彼らと一致しながら、いつもそれを南仏人独特の笑いと詩情でくるみ、弱者に対する同情を直接表現することによって、多くの読者に喜んで迎え入れられた。ドーデ自身のいうように「幻想と現実との奇妙な混合」こそ彼の作風の特色といえよう。
ほかに自伝的小説『プチ・ショーズ(おちびさん)』(1868)、プロイセン・フランス戦争やパリ・コミューンのドラマにテーマをとった短編集『月曜物語』(1873)、同時代の恋愛風俗を描いた『ジャック』(1876)、『サッフォー』(1884)、ビゼーの音楽で有名な戯曲『アルルの女』(1872)などがある。なお、アクシオン・フランセーズ運動の中心人物の1人レオン・ドーデは彼の息子である。
[宮原 信]
『原千代海訳『プチ・ショーズ』(岩波文庫)』▽『朝倉季雄訳『サフォ』(1947・文体社)』
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フランスの小説家。南フランスのニームに生まれた。父親が事業に失敗,破産したため,貧困のうちに幼少期をすごし,南仏を転々とし,一時は中学の舎監をつとめたりする。17歳のとき,作家であった兄を頼ってパリに出て,文学活動を始める。詩集《恋する女たち》(1858)がきっかけで,モルニー伯爵の秘書の職を得た。1866年,26歳で発表した《風車小屋だより》によって一躍有名になった。南仏プロバンス地方を舞台にした25の短編から成る作品集で,日本でも親しまれている〈スガンさんの山羊〉や,戯曲化され,ビゼーの作曲で有名な〈アルルの女〉などが含まれている。ドーデはパリでゴンクール兄弟,ゾラ,フローベールらと交際し,自然主義文学の影響を受けたが,ゾラのような理論や壮大な想像力はなかった。彼はつねにたずさえている手帳に,見聞きした庶民生活の印象的な出来事や個人的体験をメモしておき,それをもとにほろりとするような小さな物語をこしらえるのを得意とした。このほかに中学の舎監時代の体験にもとづいた《プティ・ショーズ》(1868),南仏人の典型のようなほら吹きのお人好しを描いた《タルタラン・ド・タラスコン》(1872),普仏戦争やパリ・コミューンを素材にした短編集《月曜物語》(1873)などがある。なお1896年にはゴンクール兄弟の遺言により,アカデミー・ゴンクールの創立会員に選ばれた。
執筆者:山田 稔
フランスのジャーナリスト。A.ドーデの子。最初医学を修めたが,ドリュモンに共鳴して《リーブル・パロール》紙に反ユダヤ主義の論説を発表することでジャーナリストとしての天性に目覚めた。ドレフュス事件に際してモーラスの君主制主義を支持し〈アクシヨン・フランセーズ〉に加盟,1907年モーラスらとともに日刊紙《アクシヨン・フランセーズ》を創刊した。以後,同紙の主筆として現代文明の悪をしんらつな筆致で告発しつづけ,極右の論争家として令名をうたわれた。彼の活躍は多方面にわたり,《やぶ医者》(1894)などの風刺小説,《シェークスピアの旅》(1896)のようなユニークな伝記,《愚かしき19世紀》(1922)のような文芸評論,《幻影と生者》(1914),《ユダの時代》(1920)などの優れた回想録を残している。彼の小説鑑識眼もよく知られ,プルースト,ベルナノスらの才能をいち早く見抜き,文壇に推挙した。
執筆者:渡辺 一民
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