戦争犯罪人war criminalの略。第2次世界大戦後,連合国の軍事裁判で戦争犯罪について訴追,処罰されたもの。
第2次大戦中,連合国はドイツや日本など枢軸国による侵略や残虐行為の責任を枢軸国の指導者に集中させ,彼らをきびしく処罰することを声明した。1943年10月,米英ソ三国首脳は〈モスクワ宣言〉を発し,従来の戦時国際法が示す〈通例の戦争犯罪〉に加え,犯罪に特定の地理的制限をもたない〈主要犯罪人〉,すなわちドイツの戦争指導者については連合国間の共同決定によって処罰することを規定した。この〈主要犯罪人〉の具体的な処罰方針は,45年8月のロンドン協定とこれに付属した国際軍事裁判所条例で明らかにされた。同条例は,従来の戦時国際法に規定された〈通例の戦争犯罪〉(B)に加え,侵略戦争の計画,開始,遂行等を犯罪とする〈平和に対する罪〉(A),戦前または戦時中になされた殺害,虐待などの非人道的行為を犯罪とする〈人道に対する罪〉(C)を新たに国際法上の犯罪と規定した。この条例によりニュルンベルク裁判が開かれてドイツの戦争指導者が訴追されるとともに,同条例に準拠してマッカーサーが極東国際軍事裁判所条例を公布して,日本の戦争指導者を裁く〈東京裁判〉が開廷されるのである。A級戦犯とは,直接には〈平和に対する罪〉で訴追された者を指すが,B,Cの訴追内容もふくんだ〈主要犯罪人〉の通称であり,ニュルンベルク,東京両裁判の被告のことである。
→東京裁判 →ニュルンベルク裁判
執筆者:粟屋 憲太郎
ニュルンベルクと東京に設置された国際軍事裁判所で裁かれたいわゆるA級戦犯に対し,先述のB,Cの事由により各国別の軍事裁判所で裁かれた人々がいわゆるBC級戦犯である。しかし国際軍事裁判所での訴因はAに該当する罪だけに限定されてはいないし,また各国別軍事裁判所の中にはAにかかわる訴因を含めている場合もある。
日本に関するBC級戦犯に対する裁判は,アメリカ,オーストラリア,オランダ,イギリス,中華民国,フィリピン,フランスの7ヵ国ごとに行われた。訴因となった主要な罪科は,俘虜や一般人に対する殺害,虐待,虐待致死である。BC級戦犯5163名のうち,927名が死刑を宣告された。BC級裁判にはさまざまの不備があった。事件に関係の深い人が日本への帰国や死亡で不在であったため,関係の薄い,あるいはまったく関係のない人が被告に選ばれたこともあった。実際にはゲリラであった原住民が,裁判では軍事力をもたないまったくの一般人とみなされ,彼らとの戦闘の結果が,市民の虐殺として取り扱われたこともあった。食事,衛生などの条件が全般的に悪い環境の中では,俘虜だけが悪い待遇を受けたとはいえない場合もあったが,その場合でも虐待などの罪で罰せられたものもある。これらの例が示すように,BC級裁判は事実の認定や情状の酌量などに関して問題のあるケースを含んでいた。また不法行為(たとえば俘虜の処刑)が上官の命令によるものであろうと,実行者は責任を免れえなかったが,日本軍隊の中では,どんな場合でも上官の命令に従うべきであるとされていたから,命令を実行しただけだと思っている者にとっては,裁判のきびしい量刑が不当に思えた。これらの事情のために,有罪判決が戦勝国側の報復処置であるにすぎないという印象を,受刑者に与える傾向があった。死刑その他で死亡した戦犯たちの遺文を収めている《世紀の遺書》(巣鴨遺書編纂委員会編,1953)の中で,自己の有罪を認めた内容のものがわずかしかないのはおそらくそのためである。しかしそれにもかかわらず,多数の遺文は自分たちをこのような境遇におとしいれた戦争の悲惨さを訴え,平和への希求を述べているので,その限りにおいて裁判一般は無効ではなかったという評価も可能である。
ドイツに関するBC級裁判は日本の場合よりも複雑である。ドイツの場合は〈犯罪組織への加入〉という罪がもう一つ加えられている。犯罪組織とはナチ党や親衛隊を意味する。また強制収容所関係で多くの被告が裁かれたことも,日本の場合と異なっている。各国別の単独裁判は,アメリカ,イギリス,フランス,ソ連の4占領国をはじめとし,それら以外に,ドイツがかつて占領したポーランド,チェコスロバキア,ベルギーなどによっても行われた。なお,ドイツ(連邦共和国と民主共和国の両方)法廷による裁判が行われたことも,日本の場合と異なっている。
→戦争犯罪
執筆者:作田 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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