ヤージュニャバルキヤ(その他表記)Yājñavalkya

改訂新版 世界大百科事典 「ヤージュニャバルキヤ」の意味・わかりやすい解説

ヤージュニャバルキヤ
Yājñavalkya

古代インドの哲人で,ウッダーラカ・アールニ弟子と伝えられる。生没年不詳。《ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド》などの初期のウパニシャッドに登場する。彼の哲学説の中心はアートマン自己本体)論である。彼によれば,この世界はすべてアートマンにほかならない。ところが,アートマンは純粋に認識主体であり,決して対象にはなりえない。したがってそれは把捉表現も不可能であり,あえて表現するとしても,〈そうではない,そうではない〉と否定的にしか表現できない。この道理を明らかに証得したとき,人は不死に至るという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤージュニャバルキヤ」の意味・わかりやすい解説

ヤージュニャバルキヤ
やーじゅにゃばるきや
Yājñavalkya

生没年不詳。インド哲学、ウパニシャッドにおいてもっとも有名な思想家。ほぼ紀元前750~前700年の人。『ヤジュル・ベーダ』の一種である「白ヤジュル・ベーダ」の祖であり、ベーダ聖典中の記述から、ヤージュニャバルキヤ二人説、三人説がある。絶対者アートマン(我(が))は否定的名辞によってのみ説明されうるものであるが、アートマンの認識はすべてのものの認識につながる。死後には、人間の識別作用は存することはない。そしてアートマンへの帰入こそ不死であるというのが彼の学説である。なお、彼の哲学説はジャイナ教の古い文献にも触れられている。

[松濤誠達 2018年5月21日]

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百科事典マイペディア 「ヤージュニャバルキヤ」の意味・わかりやすい解説

ヤージュニャバルキヤ

古代インドの哲学者。生没年不詳。初期ウパニシャッドに見え,ウッダーラカ・アールニの弟子とされる。アートマン主体性と不可認識性を説いた。
→関連項目ウパニシャッド

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世界大百科事典(旧版)内のヤージュニャバルキヤの言及

【ウパニシャッド】より

…これは,宇宙の本体としての〈ブラフマン(梵)〉,および人間存在の本質としての〈アートマン(我)〉とをそれぞれ最高の実在として定立したうえで,この両者が本質的には同一であって,その同一性を悟ることによって解脱が得られると説くもので,《リグ・ベーダ》末期以来徐々に発展しつつあった一元論的傾向が,いちおうの頂点に達したものと考えられる。代表的思想家としては,梵=我を純粋の認識主体と考えてその精神性を強調し,観念論への道を開いたヤージュニャバルキヤ,および〈実有sat〉としての梵我を第一存在として,〈実有〉からの宇宙発生を説いたウッダーラカ・アールニの両者が挙げられる。〈梵我一如〉の思想は,のちにベーダーンタ学派に継承され,インドにおける最も有力な思想となった。…

【神秘主義】より

…(1)ウパニシャッド 東洋古来の諸宗教のうちでは,まずウパニシャッドの神秘主義がとくに顕著である。その代表者としてウッダーラカ・アールニとヤージュニャバルキヤを挙げることができる。万物の根源である最高唯一の実在をサットsat(実有)と呼んだウッダーラカは,〈汝がそれであるtat tvam asi〉と教える。…

【不可知論】より

…したがって,インドの神秘主義者のほとんどは同時に不可知論者でもあった。例えばウパニシャッドの哲人ヤージュニャバルキヤは,アートマンは〈そうでない,そうでない〉としかいいようのないものであるとし,大乗仏教の中観派の論者ナーガールジュナ(竜樹)は,世界は不生不滅,不一不異,つまり空であり固定的言語表現による真如の把握は不可能とした。また,宗教実践上の観点から,さまざまな世界のものごとについての判断は無用である,ないしそのような判断を停止したほうが心の平安が得られるとする考えも有力であった。…

※「ヤージュニャバルキヤ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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