改訂新版 世界大百科事典 「ヤジュルベーダ」の意味・わかりやすい解説
ヤジュル・ベーダ
Yajurveda
古代インドにおけるバラモン教の聖典ベーダを構成する諸文献のうち,4種のサンヒター(本集)の一つ。ヤジュスyajusすなわち祭詞を集録したもので,祭式において行作(ぎようさ)の実行を担当するアドバリユadhvaryu祭官の管掌に属するとされる。ヤジュスとは祭式の効力を生ぜしめる目的で行作にともない神格,祭具,供物などに呼びかける文句で,おおむね散文で書かれている。《ヤジュル・ベーダ》は伝承によれば86派あるいは101派に分かれて伝承されていたとされるが,現存するのはこのうちの数種である。これらはまた,〈黒ヤジュル・ベーダ〉と〈白ヤジュル・ベーダ〉の2種に大別される。前者においてはサンヒターの中にブラーフマナに相当する部分が含まれているのに対し,後者においてはブラーフマナがサンヒターから分離して,独立の文献となっている。成立年代は前800年を中心とする数百年間とおおまかに推定されているが,〈黒ヤジュル・ベーダ〉が〈白ヤジュル・ベーダ〉よりも古い時代に属することは確かである。《リグ・ベーダ》のような神話的・文学的興味には乏しいが,祭詞の順序はほぼ儀式の順序に一致していて,バラモン教祭式の実際を知るうえで重要な文献である。
→ベーダ
執筆者:吉岡 司郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報