よしもとばなな

日本大百科全書(ニッポニカ) 「よしもとばなな」の意味・わかりやすい解説

よしもとばなな
(1964― )

小説家。東京都生まれ。本名吉本真秀子(まほこ)。日本大学芸術学部文芸学科卒業。『言語にとって美とは何か』『共同幻想論』『ハイ・イメージ論』で知られる思想家吉本隆明次女として生まれる。姉は『プロジェクト魔王[アルドラ]』(1992~1998)の漫画家ハルノ宵子(よいこ)。幼いころから作家を志す。死や愛といったモチーフから、生きることの淋しさや美しさを自然に描き出すその作風は多くの人々の心を打つものがある。1986年度(昭和61)大学卒業制作「ムーンライト・シャドウ」は芸術学部長賞を受賞した。

 1987年、吉本ばなな筆名で書いた小説「キッチン」が海燕新人文学賞受賞。唯一の肉親であった祖母を亡くした主人公の、突然で奇妙な、青年とその母親との同居生活を通して生と死をみつめたこの物語で、文壇にデビュー。その繊細かつ透明で力強さも持ち合わせた文体と、日常のまっすぐな描き方で大きく反響をよび、ベストセラーとなる。翌1988年には同作で泉鏡花文学賞を受賞。日本国内にとどまらず、イタリアやアメリカなどでも高く評価された。その後、『哀しい予感』(1988)、恋愛の光と影を 切なくうたった『うたかた/サンクチュアリ』(1988、芸術選奨文部大臣新人賞)、夏の海辺の町での日々を、つぐみという印象的な少女をとりまく物語とともにつづった『TUGUMI』(1989、山本周五郎賞)、生きるなかでの閉塞感を「夜」に投影した三部作からなる『白河夜船』(1989)、『N・P』(1990)、初の短編集『とかげ』(1993)と次々に作品を発表し、1994年(平成6)1月に初期の集大成ともいえる『アムリタ』(紫式部賞)を刊行した。その後も『マリカの永い夜/バリ夢日記』(1994)、『SLY』『ハチ公最後の恋人』(1996)、『ハネムーン』(1997)、『ハードボイルド/ハードラック』(1999)、『不倫と南米』(2000、ドゥマゴ文学賞)、『体は全部知っている』(2000)、『虹』(2002)と、一作ごとに作家として着実な成長を遂げている。また、「オカルト」「ラブ」「デス」「ライフ」のテーマごとに、4巻から成る『吉本ばなな自選選集』(2000~2001)も刊行された。

 諸作品は「キッチン」をはじめ、海外三十数か国で翻訳、出版されている。イタリアにおいては、これまでスカンノ賞(1993)、フェンディッシメ文学賞「Under 35」(1996)、マスケラダルジェント賞文学部門賞(1999)などを受賞しており、世界で広く日常的に作品を読まれる初の日本人作家だといえる。その著作活動は小説を中心としているが、エッセイ集や対談集なども多数出版されている。また、各分野のアーティストとの交友関係も広く、2000年には、現代美術家の奈良美智(よしとも)(1959― )とのコラボレーション作品『ひな菊の人生』も発表している。出す作品がすべてベストセラーとなる現在数少ない作家の一人である。生きることに対しての真摯な姿勢をくずさない彼女の作品は普遍性を帯びており、それが多くの人の心に届いて共感をよび、新しい世代に読み継がれ、愛される所以(ゆえん)でもある。2002年8月、『王国 その1 アンドロメダ・ハイツ』より、「吉本ばなな」から現名に改める。

[根本昌夫]

『『マリカの永い夜/バリ夢日記』(1994・幻冬舎)』『『不倫と南米』(2000・幻冬舎)』『『体は全部知っている』(2000・文芸春秋)』『『吉本ばなな自選選集』全4巻(2000~2001・新潮社)』『『虹』(2002・幻冬舎)』『『王国 その1 アンドロメダ・ハイツ』(2002・新潮社)』『『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』『白河夜船』『アムリタ』『とかげ』(新潮文庫)』『『TUGUMI』『ハチ公最後の恋人』『ハネムーン』(中公文庫)』『『哀しい予感』『N・P』(角川文庫)』『『ハードボイルド/ハードラック』(幻冬舎文庫)』『吉本ばなな・奈良美智著『ひな菊の人生』(2000・ロッキング・オン)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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