改訂新版 世界大百科事典 「ラオコオン」の意味・わかりやすい解説
ラオコオン
Laokoon
啓蒙思想家レッシングによる芸術論(1766)。トロイアの神官ラオコオンの非業の死をあらわす大理石群像と,この出来事を歌ったウェルギリウスの詩句との比較を手がかりに,〈絵画(美術一般)と文学との限界〉を説く。両者は,古来いい習わされた近親関係にもかかわらず,模倣の対象,媒材,技法を異にし,絵画は空間に並存する〈物体〉を形と色によって,文学は時間とともに継起する〈行為〉を分節音(言語)によって描く。それゆえ,絵画が〈行為〉を,文学が〈物体〉を描いて美的効果をあげるには,それぞれ特殊なくふうを必要とする。《ラオコオン》は学術的な内容を随想のかたちで叙述した好例。根底には古代ギリシアの〈人間らしい〉人間に対する18世紀ドイツの憧憬がひそみ,この著作を時代の書物たらしめている。ベルリン王立図書館に職を得るため執筆され,時間的制約から予定の3部構成にいたらなかった,という通説には異論もある。
執筆者:南大路 振一
ラオコオン
Laokoōn
ギリシア伝説で,トロイアのアポロンの神官。アンキセスAnchisēs(アエネアスの父)の兄弟。トロイア戦争の10年目に,撤退を装うギリシア軍が勇士たちをその腹中にひそませた巨大な木馬を残して戦場を去ったとき,それが女神アテナへの奉納品どころか,敵の詭計にほかならないと見抜いた彼は,木馬を城内に引き入れることに反対したが,海から現れた2匹の大蛇に2人の息子ともども締め殺された。この大蛇は,彼が神官の身にもかかわらず,結婚して子どもをもうけた罰としてアポロンが送ったとも,アテナが木馬の城内引入れに反対した彼を罰するために送ったともいわれる。彼の最期はウェルギリウスの叙事詩《アエネーイス》に語られているほか,前1世紀の群像彫刻によってもよく知られる。またドイツの劇作家・思想家レッシングはこの彫刻を題材にして有名な芸術論《ラオコオン》(1766)を著した。
執筆者:水谷 智洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報