日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラップ・アカウント」の意味・わかりやすい解説
ラップ・アカウント
らっぷあかうんと
wrap account
証券会社が顧客と投資一任契約を結び、投資助言を与えたり、自社・他社を問わずファンドマネージャー(投資顧問・資産運用会社)の利用を斡旋(あっせん)したりすることで、投資家の資産管理・運用を助け、顧問料、売買手数料、口座管理料などを一括して徴収する口座。手数料は個別の売買ごとにではなく、口座残高の額などに応じて徴収される。ラップ口座ともいう。各種のサービスを「包括するwrap」と同時に、顧客の資産を「包み込むwrap」ことからこの名がある。今日ではセパレートリー・マネージド・アカウント(Separately Managed Account=SMA)ともよばれ、顧客ごとの特性に、より合致したサービス内容の向上が図られている。
アメリカでは、1975年5月1日に株式売買委託手数料が自由化されたこと(「メーデー」とよばれる金融制度改革の一環)を契機に、証券会社が新たな収益機会を模索する動きが活発化したが、そうしたなかでラップ・アカウントはEFハットン社E. F. Hutton & Co.により開発された。1990年代以降に利用が活発化するが、その背景としては、市場参加者おのおのに与えるメリットとして、以下の諸点が評価されたからである。
まず、証券会社にとっては、ブラック・マンデー(1987年10月の世界的な株価暴落)を経験したことで、市況環境に左右されない収益構造の確立が求められたが、従来のホールセール(大口取引)重視からリテール(小口取引)へと経営戦略の軸足が移動するなかで、顧客第一主義的な思想が芽生え、証券会社にとっても安定的な収益源の確保(この結果、高格付け→資金調達コストの低下→競争力向上、が期待される)が志向されたからである。一方、アメリカでは膨大な数の投資運用会社が登録され、激しい競争にさらされているが、ラップ・アカウントのネットワークに入ることにより、もし指名されれば収益確保への道が開かれるという利点がある。さらに、投資家にとっては、費用負担が相対的に低く、取引回数に影響されない料金体系であるため、証券会社の営業担当者による歩合手数料稼ぎを目的とした過当売買の懸念から解放されるなどのメリットがある。
アメリカのラップ・アカウントは、その普及に伴い、本来のコンサルティング・ラップという形態に加えて、ミューチュアル・ファンド・ラップとよばれる、投資信託を用いたラップが加わっている。ミューチュアル・ファンド・ラップでは、通常、証券会社の一任取引となり、投資顧問会社等を介在させずに、自ら投資信託組入れに関する助言を行う形態がとられる。一般の投資家にとっては、多種多様な投資信託のなかから自分に最適な商品を選定するうえでの労力を省けるなど、利便性が図られている。
ラップ・アカウントのサービスは、日本においても大手証券会社を中心に提供されている。ただ、ラップ・アカウントの口座開設に際しては、一定額以上の資産預入れが必要である。この点はアメリカにおいても同様であり、ラップ・アカウントは富裕層向けのサービスと位置づけられる。
[高橋 元]