ドイツ・ロマン派の画家の一群。1809年オーバーベック,フォルFranz Pforr(1788-1812)らウィーン・アカデミーの学生6人がアカデミズムに反対して〈聖ルカ兄弟団〉を結成,中世の画家のような宗教への奉仕と共同制作を目ざして,翌年ローマのサンティシドロ修道院跡に移り住んだ。その異様な風体からナザレ派とあだ名される。彼らの精神的・理論的基盤として,ワッケンローダーWilhelm Heinrich Wackenroder(1773-98)の《芸術を愛する修道僧の心情吐露》(1797)や,芸術の目的を宗教的象徴に置き,15~16世紀前半のイタリア,フランドル,ドイツのいわゆるプリミティブ絵画の模倣を勧めカトリシズムへの回帰を説くF.シュレーゲルの《パリ・オランダ絵画通信》(1803-05)が挙げられる。彼らはペルジーノ,ラファエロ,デューラーらに範を仰ぎ,聖書や中世文芸に題材を求めた。当初はフォルがドイツ的傾向を代表し,様式模倣を越えた詩情ある作品を残したが,彼の早世後はイタリア的傾向を代表するオーバーベックが中心となり,新しい画家も加わった。訓練不足を補う意味もあって,彼らはしばしば互いをモデルに〈中世ドイツ的〉細密さでデッサンしたが,親密さと性格洞察を備えたこれら肖像デッサンには好作品が多く,とくに夭逝したフォールCarl Philipp Fohr(1795-1818)の作品はみずみずしい。しかし過去の規範の再興を目ざす彼らは教条主義,折衷主義に傾く嫌いがあり,また統一様式を形成するには個人主義的でありすぎた。たとえば,ローマのバルトルディ荘(1816-17)およびマッシモ荘(1822-32)のフレスコ画共同制作はそれを物語っている。最も力量のあったコルネリウスPeter von Cornelius(1783-1867)は,モニュメンタルで力強い作風により,模倣のもたらす硬化を補ったが,同時に当初の素朴で親密な敬虔(けいけん)さは希薄化した。歴史画・宗教画様式に変容したナザレ派は,24年コルネリウスのミュンヘン招聘(しようへい)を皮切りに新たなアカデミズムとしてドイツ各地に伝播し,とくにシャドーWilhelm von Schadow(1788-1862)の率いる〈デュッセルドルフ派Düsseldorfer Molerschule〉は,全く写実化した様式でおもにドイツの伝説や宗教的主題を大画面に描き,一世を風靡(ふうび)した。イギリスではナザレ派に倣いラファエル前派が興った。
執筆者:大原 まゆみ
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ドイツ19世紀初頭の画家グループ。ドイツ中世とイタリア初期ルネサンスを範として宗教画の復興を企図する。1809年オーフェルベックFriedrich Overbeck(1789―1869)とプフォルFranz Pforr(1788―1812)によってウィーンに教団的性格をもつグループとして発足、翌年ローマの廃屋化したサン・イシドロ修道院に移住する。コルネリウスPeter Cornelius(1783―1867)、カロルスフェルトSchnorr von Carolsfeld(1793―1872)、ファイトPhilipp Veit(1793―1877)、シャドーWilhelm von Schadow(1789―1862)らをメンバーに加え、画僧として厳格なカトリシズムの戒律の下に共同制作を行う。当時の人は彼らをあざけってナザレ人(びと)とよんだが、彼らはこの蔑称(べっしょう)を進んでグループ名とした。初期ルネサンスの素朴への復帰、色彩によるロマン派的情感の鼓吹と並んで、中世の共同制作の精神を復活しての壁画による記念碑的視覚の開拓は、当代ドイツ美術への彼らの貴重な貢献であり、19世紀後半のドイツ美術にも大きな影響を与えた。
[野村太郎]
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…リューベック生れ。アカデミーの教育内容に失望,敬虔(けいけん)な心情に基づく宗教画の再生を図り,1809年意を同じくする仲間と〈聖ルカ兄弟団〉を結成し,翌年ローマに移住,ナザレ派と呼ばれる芸術共同体の中心的存在として〈絵において祈る〉ことを課題に制作した。ペルジーノ,ラファエロに負う画風は端整で抒情的だが晩年に硬化。…
…19世紀初頭前後の絵画は,メングスやカルステンスらの古典主義よりも,オーバーベックやF.フォルのロマン主義によって彩られる。彼らはアカデミックな美術に反対して,ラファエロやデューラーに帰ることを唱え,ローマの修道院遺構に起居しながら,深い宗教的感情のなかで制作した(ナザレ派)。そして北方の2人の画家フリードリヒとルンゲの風景画と肖像画とにおいて,ロマン主義絵画はそのもっとも感動的な表現を見いだす。…
※「ナザレ派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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