改訂新版 世界大百科事典 「パトモア」の意味・わかりやすい解説
パトモア
Coventry Kersey Dighton Patmore
生没年:1823-96
イギリスの詩人,批評家。大英博物館に20年ほど勤めて詩作し,3度結婚。〈結婚愛〉をテーマにした四部作の物語詩《家庭の天使》(1854-63)を書き,大胆で純粋な性の心理的解釈と,そこはかとないペーソスで読者の心をとらえた。1862年,ローマ・カトリックに改宗して,宗教的・神秘的傾向を深めた。トマス・アクイナスの精神にそいながらも禁欲主義をしりぞけ,男女の愛をたかめて人間精神と神との合一へ昇華させようとした。ピンダロス風のオード《未知のエロス》(1877)は,その所産である。《芸術の原理》(1889),《枝・根・花》(1895)のような評論,エッセーもあるが,その本質は,神秘的宗教詩人たることにあった。17世紀の宗教詩や現代詩に通じる点は,人間的なエロティシズムと霊性の一致,そして《アミーリア》(1878)の序文にあるように,科学的な作詩法に基づいて,多様な韻律の詩を書いたことであろう。
執筆者:松浦 暢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報