内科学 第10版 の解説
リウマチ・アレルギー性疾患の新しい展開
一方,自己炎症症候群のようにおそらく単一の遺伝子異常による疾患と比べて,より頻度の高いリウマチ性疾患やアレルギー性疾患は,複数の遺伝要因と環境要因により発症すると考えられてきた.しかし,方法論の限界を含めて,遺伝要因の詳細な解析はむずかしかった.近年,ヒトゲノムの全塩基配列の解明に続き,遺伝子多型のタイピングの簡易化などの技術的進展により,ゲノム全体にわたって分布する遺伝子多型の頻度を患者と健常人で比較し,その違いが有意な遺伝子領域に疾患関連遺伝子があるとの考え方に基づいて,ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)が開発された.そして,これを用いた疾患関連遺伝子の解析が多くの疾患で行われつつあり,本領域でも,関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,気管支喘息などの疾患で,その遺伝要因が明らかにされつつある. 治療に関しては,サイトカインや細胞表面抗原を標的とした生物学的製剤が,関節リウマチをはじめとしていくつかの免疫が関与する疾患で使われるようになり,いままでの治療法ではみられなかったすぐれた治療効果が得られることが判明しつつある.特に関節リウマチでは,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)を標的とした生物学的製剤を中心に,炎症を抑えるだけでなく関節破壊も抑制できることが判明し,疾患を寛解状態に持ち込める確率が向上しつつある.これらの進歩により関節リウマチ治療のアルゴリズムも大幅に変更され,いかに早く診断して,いかに有効な治療を確実に施行するかが重要な課題となってきている.さらに,生物学的製剤の種類も適応疾患も今後ともますます増大する傾向にある.ただし,感染症を中心とした副作用に注意が必要で,また治療薬が高価であるなど,種々の問題点もある.[山本一彦]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報