リウマチ性疾患と遺伝子異常

内科学 第10版 の解説

リウマチ性疾患と遺伝子異常(リウマチ性疾患総論)

(1)リウマチ性疾患の遺伝性と遺伝要因の分類
 リウマチ性疾患は,筋骨格系臓器・結合組織に異常をきたす疾患の総称であるが,その病態は,解剖学的・生理学的・病理学的に多彩である.まず,関与遺伝子数で分けると,ほかの疾患群の遺伝因子の場合と同様に,単一遺伝性疾患と複合遺伝性疾患とに分類できる.また,遺伝子産物である蛋白の種類で分類すると,結合組織の構造分子の異常による場合と,代謝炎症・自己免疫反応などの現象に関する機能性分子の異常が筋骨格系・結合組織をおもな場として起きる場合とに大別できる.さらに,まれな疾患か罹患率の高い疾患かという観点でも大別できる(表10-1-5).
(2)単一遺伝子疾患・構造遺伝子異常
 Marfan症候群Ehlers-Danlos症候群は,結合組織構成分子の異常を原因とする,人口10万人あたり数名からそれ以下の罹患率をもつまれな疾患であるが,浸透率が高く,家族集積性・遺伝形式の確認しやすい単一遺伝性疾患である.これらの原因としての構造分子遺伝子およびその関連遺伝子の変異が同定されている.このような単一遺伝子病においては,疾患家系研究により原因遺伝子を同定し,疾患の原因を分子レベルで解明する一方,その明確な遺伝形式から,遺伝子診断を含めた遺伝カウンセリングの対象となる.また,家族内発症を伴わない発端症例の場合には,原因遺伝子に発生した新規変異が原因の可能性があり,その探索をする必要が生じうる.
(3)複合遺伝性疾患
 多くの単一遺伝子病の有病率はきわめて低いのに対し,複合遺伝性疾患のそれは比較的高い.後者であるリウマチ性疾患の中で最も有病率の高い関節リウマチでは,有病率が0.6%と高い.このような有病率が高い複合遺伝性疾患の場合には,集団中に数%から数十%という高頻度で存在する遺伝子多型バリアント(コモン・バリアント)と,それより低頻度のもの(レア・バリアント)が集まって,遺伝的リスクを構成していると考えられている.しかも,個々の複合遺伝性疾患リスク多型を保有することで上昇する発病リスクは1.5倍弱からせいぜい数倍程度である.これは多くの単一遺伝子疾患の変異を保有すると高確率で発病し,変異をもたない場合には発症しないことと好対照である.この差は,単一遺伝子疾患原因変異の多くが,ペプチド産物長の短縮や機能部位のアミノ酸置換をもたらすのに対して,複合遺伝性疾患感受性多型の多くは,産物のペプチド配列には影響を与えず,遺伝子の発現・翻訳調節に影響を与えるものであり,また,アミノ酸置換を伴う場合でも,分子の機能部位以外であるなど,変異・多型が質的に異なるためであると考えられている.
(4)リウマチ性疾患感受性ローカスを多数有する主要組織適合抗原(MHC/HLA)領域
 MHC領域はゲノム上で最も多型性が高く,遺伝子密度が高い領域である.同領域には,免疫系の要となる,MHC遺伝子をはじめ,それ以外の免疫系諸分子を含む数多くの遺伝子が集中している.多数の自己免疫疾患の感受性ローカスがこの領域に認められており,リウマチ性疾患との関連が指摘されているMHC領域遺伝子を表10-1-6に示す.
(5)ゲノムワイドアソシエーションスタディ(GWAS)によるMHC/HLA領域外の関連遺伝子解析
 ヒトゲノム全体を対象にして複合遺伝性疾患に関係する遺伝子・遺伝子多型を同定する試みであるGWASが21世紀に入るとまもなく開始され,リウマチ性疾患においては,関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・強直性脊椎炎・Behçet病などで実施され,重要な知見が蓄積している.このGWASにより,MHC/HLA領域が疾患と関連することが確認されるとともに,自然免疫系・獲得免疫系に属する分子をコードする遺伝子を中心にさまざまな遺伝子がリウマチ性疾患に関連していることが判明してきている.リウマチ性疾患の発病リスクをもたらす炎症・免疫系の遺伝子がコードする分子は,細胞間のコミュニケーション,細胞のシグナル伝達・分化など,多彩な過程にかかわっている.これらの遺伝子・遺伝子多型には,特定のリウマチ性疾患に限定して影響するものと,複数のリウマチ性疾患にまたがって影響するものがある(Clarkeら,2009).
(6)遺伝子解析結果と臨床
 単一遺伝子疾患の臨床においては,上述したように,遺伝カウンセリング・遺伝子診断が実施されている.一方,複合遺伝性疾患の場合は,臨床上の意義(発症予測・発症予防・診断・治療・再発防止)を理解した上での臨床応用を目指して,個々の遺伝子の分子機構の理解に加え,遺伝子同士の相互作用,環境要因との相互作用に関する解明が急がれている(山田,2011).[山田 亮]
■文献
Clarke A, Vyse TJ : Genetics of rheumatic disease. Arthritis Research & Therapy, 11(5): 248-256, 2009.
山田 亮:自己免疫疾患のゲノム診断は可能か? 臨床検査, 55(11) 増刊号:1362-1363, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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