イギリスの外科医。無菌手術の創始者の一人。エセックス県アプトンの生まれ。父のジョセフJoseph Jackson Lister(1786―1869)は、色消しレンズや顕微鏡の改良で知られる。1852年ロンドン大学で学位を得たのち、エジンバラに移り、外科医ジェームス・サイムJames Sims(1799―1870)に師事した。1856年にはサイムの娘と結婚、王立インフィルマリー病院に勤務し、1860年グラスゴー大学外科教授となる。1865年、パスツールの発酵も腐敗も微生物によっておこるという研究にヒントを得て、化膿(かのう)は、当時信じられていたように、空中の酸素や菌の自然発生によるものでないと考え、翌1866年、複雑骨折に石炭酸を用いて成果を得た。この結果は「複雑骨折および膿瘍(のうよう)の新治療法」と題して、イギリスの医学雑誌『ランセット』に1867年3月から7月まで連載された。その後さらに消毒剤や無菌法の開発に努めた。消毒腸線(縫合糸)の使用も彼による。1869年グラスゴー大学、1877年ロンドンのキングズ・カレッジの教授。1895年王立協会会長。死後、記念のためリスター研究所Lister Insitute of Preventive Medicineが設けられ、イギリスにおける細菌学研究のセンターとなる。
[中川米造]
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イギリスの外科医。エセックスのアプトンで生まれ,ロンドンで学び,1860年グラスゴー大学外科学教授となり,69年エジンバラ大学へ,さらに77年ロンドンのキングズ・カレッジに迎えられた。83年従男爵に,97年上院議員に選ばれた。彼はすでにグラスゴー時代から感染病の原因が傷口の腐敗であることに気付いていたが,パスツールの実験によって腐敗もまた微生物のはたらきで起こることが明らかにされたことに基づき,1867年石炭酸消毒法を創始し,外科治療上に画期的な発展をもたらした。
執筆者:秋元 寿恵夫
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…近代外科の発展にとって最も大きな技術開発は,(1)消毒あるいは無菌手術,(2)麻酔,および(3)止血と輸血あるいは輸液,の三つである。消毒はイギリスのJ.リスターが先鞭をつけ,ウィーンではI.F.ゼンメルワイスが独自にそれを導入した。いずれも細菌学の知識なしに,傷口の化膿・腐敗あるいは血液毒を中和するために,強力な芳香をもつ石炭酸や塩素水を使用した。…
…このため石炭酸の価格は50倍以上となり,また劇薬に指定されていたので一般では手に入らず,非常措置として50倍以上に希釈したもの,他の薬剤と混和したものが地方庁に限って販売が許された。石炭酸(医学系の人はカルボールと呼んだ)を最初に殺菌の目的で臨床に応用したのはイギリスの外科医J.リスターで,傷口も含めてすべてのものを処置した。当時,手術はイギリスの陸軍病院で65~90%,市民病院で26~60%の高い死亡率を示し,手術は死と同様に考えられていたが,この処置によって死亡率を大幅に低下させることに成功した。…
…一方それまで医学において遅れていたドイツのベルリンにもCollegium medicochirurgicumが設立され,ようやく医学の一分野としての外科の立場が認められるようになった。 19世紀に入って,アメリカのロングCrawford Williamson Long(1842),ウェルズHorace Wells(1844),W.T.G.モートン(1846)やイギリスのシンプソンJames Young Simpson(1847)らによる全身麻酔法,L.パスツール(1861)の腐敗現象は空気中の微生物によるという報告に基づいたI.P.ゼンメルワイス(1847),J.リスター(1867)らによる制腐消毒法,ベルクマンErnst von Bergmann(1886)やシンメルブッシュCurt Schimmelbusch(1889)による無菌法,エスマルヒJohann Friedrich August von Esmarch(1823‐1908)による駆血帯の使用は,その後の外科手術を飛躍的に進歩させることとなった。すなわち,ランゲンベックBernhard Rudolf Conrad von Langenbeck(1810‐87)の子宮全摘出術,ティールシュCarl Thiersch(1822‐95)の植皮術,フォルクマンRichard von Volkmann(1830‐89)の直腸癌手術,ビルロートTheodor Billroth(1829‐94)の胃切除術の成功例が報告されるようになった。…
…ブダに生まれ,ウィーン大学を1844年に卒業,同年から5年間同大学産科学教室助手として勤務したが,その間47年に産褥(さんじよく)熱を予防するには塩化石灰水で手を洗う方法がきわめて有効であるという説を発表した。彼の着眼点は,それから20年後の67年に初めて石炭酸包帯法と噴霧法とを外科手術に応用して,のちに消毒法の生みの親として知られるようになったリスターのそれとまったく同じであったのだが,当時の学界では,それがもつ意味を理解できたものはほんの数人で,ついに公認されなかった。51年ブダペスト大学産科教授となり,61年《産褥熱の原因,概念および予防》と題する著作を発表したが,65年ウィーン近郊の精神病院で47歳の生涯を終えた。…
※「リスター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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