翻訳|disinfectant
感染予防および感染拡大防止のために、環境や人体の外部(皮膚など)に使用される外用薬剤。すべての微生物(病原性を有する細菌、真菌、ウイルスなど)を殺滅もしくは除去する「滅菌」とは異なり、人体や家畜に対する有害な微生物、あるいは感染防止を目的とする対象微生物のみを殺滅もしくは除去するための薬剤である。
[北村正樹 2023年5月18日]
消毒薬の効果は、微生物を形成している細胞壁、細胞膜、核酸などへの作用(凝固、酸化、溶解など)によるものとされており、この作用を有効に発揮するために、消毒薬を使用する前には、消毒対象部位などに付着している有機物(血液、膿(うみ)など)をあらかじめ水洗いしておく必要がある。また、消毒薬の効果は、(1)薬剤濃度、(2)使用温度、(3)接触時間に大きく左右されることにも留意しておかなければならない。
(1)薬剤濃度
濃度は高くなると薬剤による刺激性が大きく、副作用発現の危険性もある。逆に濃度が低くなると消毒効果が不十分となり、有害微生物の消毒薬への抵抗性も高まる可能性がある。なお、消毒薬を希釈する際は、原則として精製水を使用するが、粘膜、創傷面に用いる消毒薬の希釈には滅菌精製水を用いるのが望ましい。一方、含嗽(がんそう)(うがい)などの目的および消毒薬の種類によっては水道水でも可能である。
(2)使用温度
使用温度が高くなると消毒効果が強くなる。一般的には20℃以上の環境で使用する。
(3)接触時間
消毒の効果は消毒薬の接触時間によっても左右される。一般的に、接触時間を長くするほど低濃度でも効果があがるとされている。また、対象とする微生物の種類によっても、効果を得るために必要な接触時間は異なる。
[北村正樹 2023年5月18日]
2023年現在、使用されている消毒薬は、微生物に対する殺菌能力(殺菌スペクトル)により、(1)高水準消毒薬、(2)中水準消毒薬、(3)低水準消毒薬に大別されている。
(1)高水準消毒薬
アルデヒド系のグルタラール、フタラール、過酸化物系の過酢酸があり、大量の芽胞を有する細菌を除いて、滅菌と同じようにすべての微生物に対して有効である。おもに医療機関等において、医療器具等の消毒に使用されているが、人体や環境には障害(皮膚炎、化学熱傷など)を起こすことから使用できない。
(2)中水準消毒薬
塩素系の次亜塩素酸ナトリウム、アルコール系の消毒用エタノール、ヨウ素系のポビドンヨード、フェノール系のクレゾールせっけん液があり、結核菌、ほとんどのウイルス・真菌などには効果があるが、芽胞を有する細菌には効果が期待できない。高水準消毒薬より安全性が高いものも多く、とくに消毒用エタノールなどは医療器具等のみならず手指や皮膚、環境消毒にも汎用(はんよう)されている。
(3)低水準消毒薬
ビグアナイド系のクロルヘキシジングルコン酸塩、第4級アンモニウム塩系のベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、両性界面活性剤のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩などがあり、消毒薬に対する耐性をもつ菌や結核菌などの一部の細菌以外に効果を示す。低水準消毒薬は、他の消毒薬のなかでも、安全性がもっとも高く、かつ手軽に使用できることから、日常生活における手指や皮膚、環境消毒にも使用されている。また、低水準消毒薬そのものは消毒効果が低いため、アルコールと配合した製剤なども使用されている。
[北村正樹 2023年5月18日]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…外国では〈感染防止〉という意味どおりに英語でdisinfection,ドイツ語でDesinfektion,フランス語でdésinfectionなどという言葉が使われているが,日本では感染防止のみではなく,殺虫剤の散布や,毒ガスの中和などにも〈消毒〉という言葉が用いられている。感染防止に使用する薬剤を消毒薬と呼び,殺菌剤の一部が用いられる。消毒に関する法規的な面は,伝染病予防法や水道法,食品衛生法など環境衛生に関する諸法令の中で規定されている。…
※「消毒薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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