連合学習理論(読み)れんごうがくしゅうりろん(その他表記)associative learning theory

最新 心理学事典 「連合学習理論」の解説

れんごうがくしゅうりろん
連合学習理論
associative learning theory

連合学習理論とは,事象(出来事)の間の結びつき(連合)を学習の原理と考える理論で,古くから学習・記憶の原理と考えられてきた。そして,近年多くの理論が考案されている。

【1950年代までの連合学習理論】 連合学習理論の起源は,古代ギリシアの哲学者アリストテレスAristotelesにさかのぼることができる。彼は,ある事柄から他の事柄が想起されるのは,それらの間に類似similarity,対比contrast,あるいは接近contiguityの関係があるためだとした。その後,この考えは深く考察されないままであったが,1700年にロックLocke,J.が『人間悟性論An Essay concerning Human Understanding』の第4版において「観念連合association of ideas」と題する1章を加えて以降,イギリス経験論哲学の流れの中で,ハートレーHartley,D.,ミル父子Mill,J.,& Mill,J.S.,ベインBain,A.,スペンサーSpencer,H.ら多くの学者が観念間の連合の諸法則を論じるようになった。これら連合心理学association psychologyに客観的証拠を与えたのが,ソーンダイクThorndike,E.L.(1898)の問題箱解決課題の研究とパブロフPavlov,I.P.(1904)の唾液条件反射の研究であった。ソーンダイクは,反応によってもたらされる結果が,刺激状況と反応との結合connectionを強めたり弱めたりするという効果の法則law of effectを提唱し,パブロフは生得的反応を引き起こす刺激(無条件刺激unconditioned stimulus,US)だけでなく,それと繰り返して接近呈示された新しい刺激(条件刺激conditioned stimulus,CS)も反応を誘発するようになるという条件反射conditioned reflexの現象を報告した。

【1960年代における連合学習理論の変化】 行動主義が全盛であった時代には,単語や数字のような言語刺激を用いたヒトの学習や記憶についても,条件づけと同様の連合理論に基づいた研究が行なわれていた。たとえば,単語項目間の対連合学習paired association learningの実験が数多く実施されていたが,その後,情報理論information theoryの発展やコンピュータ普及に伴い,コンピュータの働きのアナロジーで人間の知的活動をとらえようとする情報処理心理学がヒトの学習記憶研究では主流を占めるようになっていく。このため,連合学習はもっぱら動物の条件づけ実験研究の世界だけで論じられるようになった。

 しかし,1960年代になると,動物の条件づけの実験研究においても情報理論の影響が見られるようになる。まず,エガーEgger,D.M.とミラーMiller,N.E.(1962,1963)によって,連合学習が生じるには,刺激Aが刺激Bに関する情報価information value(信号価signal value)をもつ必要があることを示唆する実験が報告された。その後,レスコーラRescorla,R.A.(1966,1967),ケーミンKamin,L.J.(1968,1969),ワグナーWagner,A.R.(1969)らによって,レスポンデント条件づけにおいては,CSのUSに関する予告性predictabilityが重要であることを示す研究が相次いで発表された。たとえばレスコーラは,条件づけ成立に際して重要なのはCSとUSの接近呈示ではなく,その相関関係,すなわち随伴性contingencyであると主張し,CS呈示時のUS呈示確率P(US|CS)がCS非呈示時のUS呈示確率P(US|)よりも高い場合に興奮条件づけexcitatory conditioning,低い場合に制止条件づけinhibitory conditioningが生じるとした。なお,P(US|CS)とP(US|)が等しい場合には条件づけが生じないとして,この真にランダムな統制truly random control(TRC)条件との比較によって,条件づけの成否を判断すべきであると論じた。また,ケーミンは,音CSと電撃USとの接近呈示により音CSが条件反応を引き起こすようになっていれば,その後に音CSと光CSの刺激複合を電撃USと接近呈示しても光CSへの条件づけが妨げられる(テスト時に光CSを単独呈示してみると条件反応が誘発されない)ことを報告し,こうした現象を阻止blockingとよんだ。彼によれば,このような場面では光CSは電撃USの到来に関して冗長であり,電撃USが呈示されても驚きが生じないため,光CSへの条件づけが生じない。ワグナーも,より予測性の高いCSが同時に呈示されている場合には,当該のCSへの条件づけが小さくなるという,相対的手がかり妥当性relative cue validityの実験などを基に,US予測性が連合強度に重要な働きをすると論じた。

【レスコーラ-ワグナーモデルRescorla-Wagner model】 こうした流れの中で誕生したのが,レスコーラとワグナー(1972)によって提唱されたレスポンデント条件づけにおけるUSの効果に関する理論(レスコーラ-ワグナーモデル)であり,以下の式で示される。

       ΔVA=αAβ(λAX

 すなわち,あるCSAの各試行における連合強度associative strengthの変化量ΔVAは,連合強度の最大値であるλから,当該試行において存在しているすべての刺激が有する連合強度の総和AXを減じた値に,二つの学習速度パラメータαAβを乗じたものである。αAはCSA明瞭度salienceに依存するパラメータであり,βはUSの強度に依存するパラメータであって,いずれも0以上1以下の値を取る定数である。また,λ値はUS呈示時には1,非呈示時には0と仮定することが多い。

 このモデルは,ハルHull,C.L.の習慣強度成長関数やそれと同型の諸学習モデルと類似しているが,大きな違いは,CSの連合強度の変化量は,当該CSだけでなくその試行に存在するすべての刺激がUSをどれだけ予告するかによって決定される(予告されたUSは条件づけ効力が弱い)とした点にある。この仮定によって,前述の随伴性の効果や,阻止現象,相対的刺激妥当性現象などのほか,試行分散効果trial-spacing effect(試行間間隔が長い方が条件づけは大きい),刺激般化stimulus generalization(条件づけたCS以外の刺激にも反応が見られる)などの統一的説明が可能となった。

 たとえば,図1は音CSと光CSの同時複合をUSと接近呈示した場合(複合条件づけcompound conditioning)の連合強度変化を示したものである。最大値1に漸近するのは,刺激複合の連合強度(各CSが獲得する連合強度の和)である。つまり各CSの連合強度は,単独で条件づけを行なった場合に獲得する連合強度1よりも小さい(隠蔽overshadowing)。また,音CSに先に条件づけを行なってから,複合条件づけを実施すると,新たに加えられた光CSの連合強度獲得は阻害される(図2,阻止現象)。なお,実験中はつねに背景刺激Xが存在すると仮定する(CS呈示時はAX試行,CS非呈示時はX試行とみなす)ことで,随伴性効果も説明可能となる。たとえば,真にランダムな統制条件では,AX試行の連合強度とX試行の連合強度が等しいことになるから,連合強度はすべて背景刺激Xが獲得することになり,刺激AすなわちCSの連合強度は0になる。

 レスコーラ-ワグナーモデルの卓越性は,単に既知の諸現象を統一的に説明する枠組みを提供しただけでなく,それまで知られていなかった新たな現象を正しく予言した点にある。たとえば,音CSと光CSにそれぞれ条件づけを行なった後,両CSを複合条件づけすると,両CSの連合強度の合計AXはUSが支持する最大値λを上回ることになり,各CSの連合強度は低下する(図3)。つまり,複合条件づけ期にも各CSはUSと接近呈示が続けられているにもかかわらず,条件づけが減弱するのである。これを過剰予期効果overexpectation effectという。

 このように,レスコーラ-ワグナーモデルはレスポンデント条件づけの連合強度予測に関して大きな成功を収めたが,欠点がないわけではない。たとえば,条件づけ後にCSだけを呈示してUSを与えない操作によって反応が消去することを,連合強度の減少,すなわち学習解除unlearningだとみなすため,その後に見られる条件反応の自発的回復は説明できない。また,興奮と制止の特性が一つのCSに同時共存する場合があるが,このモデルではそうしたことは想定していない。

【その他の理論】 レスコーラ-ワグナーモデルは,予告されたUSは条件づけ効力が弱いという仮定に基づいて構築されたものだが,条件づけ効力の変化要因をUSではなくCSの側に求めたのがマッキントッシュMackintosh,N.J.(1975)である。彼の理論(マッキントッシュモデルMackintosh model)における連合強度の変化式は,ハルの習慣強度成長関数やそれと同型の諸学習モデルと本質的に変わらないが,CSの明瞭度が試行ごとに変化するという重要な仮定が設けられている。つまり,ある試行でUSをよりよく予告した(情報価の高い)CSは明瞭度が上昇し,次の試行における連合強度の変化量が大きくなる。逆に,冗長だったCSは明瞭度が低くなって,次試行での連合強度変化量が小さくなる。つまり,情報価の高いCSは注意し,低いCSは無視するという学習が想定されている。これによって,たとえば前述のケーミンの阻止実験の結果は,以下のように説明される。まず,最初に条件づける音CSは電撃USに対する唯一の情報源であるので注意が払われ,その連合強度は増加する。しかし,複合条件づけ期に追加される光CSについては冗長である(音CSだけの場合と同じ電撃USが到来する)ことが複合条件づけ第1試行終了時に判明するため,それ以降は注意が払われず,条件づけが妨げられる。このモデルが優れている点として,CS先行呈示効果CS preexposure effectをうまく説明できることが挙げられる。条件づけ訓練で用いるCSを先行して単独で経験していると,その後のCS-USの接近呈示によって生じるはずの条件反応の獲得が遅れる。この効果は潜在制止latent inhibitionともよばれ,なんの情報ももたらさないCSには注意が向けられなくなる(無視するようになる)ため,その後,当該CSが情報価をもつ(USを予告する)ようになっても,直ちに連合学習が進まないと解釈されることが多い。そうした注意の変化がマッキントッシュモデルには組み込まれている。これに対して,レスコーラ-ワグナーモデルは連合学習に限定した理論であって,CSへの注意に関する学習は顧慮しない。

 マッキントッシュモデルと同じく,注意学習のプロセスを連合学習理論に搭載したのが,ピアースPearce,J.M.とホールHall,G.(1980)である。彼らの理論(ピアース-ホールモデルPearce-Hall model)では,つねに同じ状態が後続するCSは知覚処理が自動化されるとする。このため,つねにUSが後続しないCSが無視されるだけでなく,つねにUSが後続するCSへの積極的な注意も低下する(しかし,自動処理過程は作動するので,CSは条件反応を喚起する)と仮定されている。

 ワグナーは,レスコーラ-ワグナーモデルの発表以降,幾度もレスポンデント条件づけの理論を改定している。まず,連合学習のプライミング理論priming theoryを発表し(1979),馴化は背景刺激によって標的刺激が予告されるという連合学習の一種だと論じた。そのように予告された標的刺激は活性化されないので,その後に条件づけのCSとして用いた場合に,潜在制止現象を生むことになる。次いで,CSやUSの記憶活性化過程を細分化して,SOP(記憶の標準操作手順standard operating procedure in memory)モデルを発表し(1981),CSとUSの時間関係が連合強度に及ぼす効果などを理論的に説明しようとした。SOPモデルは記憶ノード(結節点)によって構成されるグラフ構造で示されるが,ワグナーは記憶ノードを感覚的ノードと感情的ノードにさらに分割した感情拡張版のAESOPモデルaffective extension of SOP modelをブランドンBrandon,S.E.とともに発表し(1989),条件づけに最適なCS-US間隔がレスポンデント条件づけの実験事態の違いによって異なることなどを説明した。

 レスコーラ-ワグナーモデルをはじめとして前述の諸理論では,CSがUS到来に関して冗長な手がかりである場合には学習が生じないと仮定している。したがって,隠蔽や阻止といった現象は,連合強度獲得をめぐる手がかり競合cue competitionとしてとらえられる。これに対して,ミラーMiller,R.R.らは,手がかり競合は学習時ではなく,行動表出時に生じると主張した。たとえば,ケーミンの実験で光CSが条件反応を引き起こさないのは,光CSに連合学習が生じていないからではない。テスト時において,光CSの連合強度が音CSの連合強度と同等以下であるためである。したがって,比較対象となる音CSをテスト前に単独呈示して条件反応を消去しておけば,光CSは条件反応を誘発するはずである。実際に,そのような結果が得られる場合があることが報告されている。二つのCSの連合強度の比較器(コンパレータ)を組み込んだこの考えは,ミラーとその弟子によってコンパレータ仮説comparator hypothesis(1985)として発表され,その後の研究を経て拡張版コンパレータ仮説(2001),さらにそれを数式で表現したSOCRモデルsometimes-competing retrieval model(2007)が提出されている。

 現代のレスポンデント条件づけ研究においては,以上の諸理論のほかに,共通の刺激要素に基づく般化を基に手がかり競合を説明するピアースモデルPearce modelも有力であり,さらに前述の各種のモデルの改訂版や,それらを組み合わせたハイブリッドなモデルなどが存在する。なお,ヒトの脳の中にある神経回路網(ニューラルネットワークneural network)になぞらえた仮想的なユニットの結合を基にヒトや動物の認知過程のモデルを構築しようとするコネクショニズムconnectionismでは,基本規則の一つとしてデルタ則delta rule(望ましい出力と実際の出力との差を最小限にするように結合の強さを修正する規則,Widrow-Hoff則ともいう)を想定しているが,この考えはハルの習慣強度獲得式やレスコーラ-ワグナーモデルなど現代の連合学習理論とも共通したものである。このため,これらの理論をニューラルネットワークモデルで表現し,さらに発展させる試みも盛んに行なわれている。

【連合の内容】 レスポンデント条件づけにおける連合形成のメカニズム,つまり,なぜwhy,どのようにhow,連合が形成されるかについては,前述のように複数の理論が提出されており,それらの妥当性を検証する実験も数多く行なわれている。では,形成される連合の内容は何whatだろうか。

 ソーンダイクやワトソンWatson,J.B.,ハルらによれば,それは刺激stimulusと反応responseの連合である(S-R説)が,トールマンTolman,E.C.によれば刺激と刺激の連合である(S-S説)。なお,パブロフは,大脳におけるCS中枢とUS中枢の間の経路形成について言及しており,これはS-S説であるが,CS中枢と反応中枢の経路形成すなわちS-R連合にも触れている。

 この問題は,条件づけ後にUSの価値を変化させる方法などにより,ある程度解答可能である(図4)。たとえば,レスコーラ(1973)は,まず恐怖反応を喚起するほどの大騒音を発するクラクションをUSに用いてラットに光CSへの恐怖反応を条件づけた。次に,クラクションUSだけを繰り返し呈示して恐怖反応を馴化した。その後,光CSをテストしたところ,馴化処置をしなかったラットに比べて,喚起される恐怖反応は小さかった。USの価値低下に伴い,CSが誘発する条件反応が減少するという事実は,S-R説よりもS-S説を支持する結果である。しかし,S-R説とS-S説のどちらが妥当であるかについては,条件づけの種類によって違うことが考えられる。たとえば,2次条件づけによって形成された反応は,1次条件づけを消去しても,ほとんど影響されないことが多い(図5)。これはS-R説を支持する結果だといえる。

 レスポンデント条件づけにおいて,CSはUSの価値や性質の情報だけでなく,それがいつ到来するかという時間情報も与える。このため,動物はCS-US連合の一部として,刺激間の時間関係も学習するであろうし,適切な場面ではその学習を表出するであろう。ミラー(1993)はこれを時間的符号化仮説temporal coding hypothesisとして発表し,弟子とともにこの仮説を支持する数多くの実験を報告している。

【オペラント条件づけにおける連合】 オペラント条件づけの弁別刺激についても,レスポンデント条件づけのCSの場合と同様に,手がかり競合や潜在制止が見られる。このため,レスポンデント条件づけの連合理論を準用して説明されることが多い。また,連合の内容については,反応訓練後に強化子の価値を変化させる実験から,反応-強化子の連合が想定されている。たとえばアダムスAdams,C.D.(1980)は,レバー押し反応を餌ペレットで強化したラットに,別の装置で餌ペレットを食べさせてから毒物を投与して,餌ペレットを嫌悪的にした。その後,ラットに再びレバー押しの機会(ただし,餌ペレットは呈示しない)を与えたところ,そのような嫌悪処置を行なわなかったラットと比べて,レバー押し反応率は低かった。このことから,ラットのレバー押し反応は,その反応が餌ペレットをもたらすという期待学習(反応-強化子の連合)に基づいたものであることが推測される(したがって,目的とする餌ペレットの価値が低下するとレバーを押さなくなる)。なお,レスコーラ(1991)は,数々の実験に基づき,オペラント条件づけにおいて,動物は,弁別刺激-[反応-強化子]という階層的連合構造を学習すると結論している。 →オペラント条件づけ →レスポンデント条件づけ
〔中島 定彦〕

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