アメリカ映画。監督ジョン・フォード。1941年作品。フォード作品のなかでもっとも郷愁を誘う、叙情性豊かに描かれた作品の一つ。初老の主人公が、谷にある故郷の炭鉱町で一家幸せに暮らしていた少年時代を回顧する家族の物語のなかに、神話であるエデンの園に通底するイメージと、人間の価値を問いかけるようなヒューマニズムとが共生する。当時トーキーの発達で、登場人物の心情を伝える手段として、饒舌(じょうぜつ)なナレーションの使用や瞬間的に挿入されるフラッシュバック編集(未来や過去を示すため、現在を遮断して区別させる編集技術)が流行していたが、本作は照明効果や構図、顔の表情をあえてクローズアップしないロングショットと、観る者に熟視させる沈黙の間などの映像様式とを組み合わせることにより、感傷的なシーンを情景豊かに描写している。第二次世界大戦の影響でイギリスでの現地ロケーション撮影ができず、ハリウッド郊外の20世紀フォックスの広大な所有地に、世紀転換期のイギリス・ウェールズ地方の炭鉱町を再現した。このセットは『月は沈みぬ』(1943)でも、ナチスに占領されたノルウェーの村に改装して使われている。ハリウッド大スタジオ時代の象徴的なバックロットセット(撮影用に建てられた野外セット)。監督賞をはじめ、1941年のアカデミー作品賞、撮影賞、室内装置賞など5部門を受賞した。1950年(昭和25)日本公開。
[堤龍一郎]
1941年製作のアメリカ映画。ジョン・フォード監督作品。美しい自然に包まれた人情豊かなウェールズの炭鉱町で生まれ育った少年(ロディ・マクドウォール)の口から,炭坑に生きる父(ドナルド・クリスプ)や兄たち,強い母や優しい姉(モーリン・オハラ),若い牧師(ウォルター・ピジョン)のことが回想の形式で語られる。時の流れは家族を引き裂き,不況の波が人の心を荒廃させる。父モーガンは落盤事故にあい,少年に抱かれながら坑内で息を引きとる。そして,やがて炭坑は滅びる。失われゆくものへの愛惜をこめた静かな怒りの映画として,ジョン・フォード監督の名作の1本になっている。アカデミー作品賞,監督賞,助演男優賞,撮影賞,美術賞のほか,ニューヨーク批評家大賞も受賞している。
執筆者:岡田 英美子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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