改訂新版 世界大百科事典 「ワダンノキ」の意味・わかりやすい解説
ワダンノキ
Dendrocacalia crepidifolia (Nakai)Nakai ex Tuyama
小笠原特産のキク科の木本植物。1属1種で,今のところまだ近縁属は明らかにされていない。日本に自生するキク科72属のうち,ワダンノキ属Dendrocacaliaのみが本格的な木本であり,樹高は4m,胸高直径は10cmに達し,樹皮は縦に裂ける。葉は常緑で,やや厚く,互生する。花期は12~2月。花はすべて筒状花からなる頭花で,淡紅紫色。頭花は枝端に密な散房状花序に配列される。小笠原諸島の中で,母島と聟島にのみ生育する。属名のDendrocacaliaは木性dendroのコウモリソウcacaliaの意である。前者は文字通り木本であることを表現しており,後者は頭花がすべて筒状花からなり,総苞片が1列性であるコウモリソウ属の特徴をもつことによる。
世界中に2万種をこえるといわれるキク科の大部分は多年草が占め,一~越年草が木本より多い。しかし,少ないながらも木性のキク科植物はいろいろな分類群に現れている。いずれも熱帯ないし亜熱帯に生育する点で興味深い。ときにはワダンノキのように単型属のこともあるが,数百種からなる属の中で,十数種のみが木本である場合もある。東南アジアではショウジョウハグマ属Vernoniaの数種が本格的な高木を含んでおり,ゴクナティア属Gochnatiaの1種も4~5mの木となる。ともに南アメリカの熱帯に多くの種があり,より大きい木がある。また,熱帯アフリカにも多くの木本性の種や属がある。
執筆者:小山 博滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報