翻訳|agitation
普通、扇動(せんどう)と訳されているが、プロパガンダpropaganda(宣伝)と並んで、最近ではそのまま使われることが多い。アジという省略形で用いられることもあり、「アジ演説」「アジビラ」などがその例である。一定の政治目的をもって大衆に対して情緒的に訴えかけ、あおりたて興奮させることによって、大衆の思想と行動を自己の思いどおりの方向へと操作すること。あるいは、大衆を興奮させ行動へと駆りたてる技術そのものをさす場合もある。大衆に対してそうした働きかけをするものをアジテーター(扇動家)という。アジテーション(扇動)はプロパガンダと区別されることもあり、同じ意味、ないしはプロパガンダの一部として理解されることもある。あるいはこの両者を結び付けてアジプロとかアジトプロップと表現されることもある。後者はとくに、1920年9月にロシア共産党中央委員会書記局の一部局として設立された扇動宣伝部をさすのに用いられる。それ以後、部局の名称は変わっても、大衆をイデオロギー的に方向づけ、条件づけるための諸活動という働きの面は、依然この語でよばれ、重要視されてきた。そうした活動はしばしば、具体的なテーマを掲げるイデオロギー・キャンペーンとして展開されることがある(たとえば「修正主義反対」「反帝反封建」「覇権主義反対」「百花斉放・百家争鳴」など)。
ところでアジテーションは、情緒に訴え大衆を興奮させるように仕向けるものであるから、直接大衆に話しかける方法が有効である。書かれた文字や印刷された文書よりも、演説が重要視され、大衆を興奮状態へと導く舞台装置や演出がたいせつとなる。今日ではラジオやテレビが扇動家の演説や大衆の興奮状態をそのまま全国あるいは全世界に伝えることができるから、扇動の技術はますます強力となり、扇動と宣伝の区別は不分明となりつつある。
レーニンは、アジテーションを大衆向け、プロパガンダをインテリ向けとして区別し、前者にはスローガンなど単純なもので訴え、後者には学問的な教化が適当とみた。しかし両者はともに政治闘争に不可欠の戦略であるとした。ヒトラーにとっては、宣伝は「大衆に対してだけ向けられる」もの、そして「その内容において科学とはまったく縁遠いもの」であったから、宣伝はとりもなおさず扇動にほかならず、しかも扇動は原始的であることがよいとされた。
最近の情報技術の発達とともに、アジテーションは従来と異なる形をとりつつあることに注意しなければならない。人々が意識しないような深層心理への訴えかけがなされ、アジテーターは「隠れた説得者」として大衆の前には姿を現さないかもしれないが、大衆は興奮し、ある行動へと駆りたてられるという可能性が増大している。
[飯坂良明]
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