改訂新版 世界大百科事典 「アヌビス」の意味・わかりやすい解説
アヌビス
Anubis
古代エジプトのジャッカルまたは犬の神。オシリスがアビドスに王国を確立してより,そのネクロポリスの神として〈冥界の支配者〉の称号を得た。ピラミッド文書ではホルスの目と結びつけられ,冥界で死者をオシリスまで導くことが彼の務めとされた。イシスとネフテュスの造った包帯で死せるオシリスをミイラとし,かつラーの命によりオシリスを蘇生せしめたことから〈ミイラ造りの家の主〉ともいわれた。《死者の書》ではオシリスの法廷で死者の心臓を計量し,葬儀に際して墓の入口で死者のミイラを受け取る姿が描かれ,151章ではミイラの横たわる棺架のわきに立ち,保護するしぐさで手を差しのべ,〈我はオシリスを保護せんために来たれり〉と言ったさまが描かれている。道の開拓者たる金狼神ウプウアットUp-uatと対をなし夏至の擬人化であるほか,医学の守護神としても知られ,信仰の中心地はレトポリスLetopolisで,ヘリオポリスのアトゥム・ラー神殿,サイスのネイト神殿と共にレトポリスのアヌビス神殿は下エジプトにおける医療の中心地であった。
執筆者:中山 伸一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報