アビドス(読み)あびどす(英語表記)Abydos

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アビドス」の意味・わかりやすい解説

アビドス
Abydos; Abdu; Ebot

古代エジプトの最も有名な聖地。エジプト名アブドゥ,コプト名エボト。ナイル川西岸の砂漠にあり,上エジプトの重要な都市ティニス墓地であった。 19世紀になって第1,2王朝の王たちの墳墓が発見されたが,多くは死体を埋めない記念碑と考えられている。元来はケンティ=アメンテューという山犬の神を祀っていたが,第5王朝には,オシリス神がアビドスと結びつき,まもなくアビドスはオシリス祭儀の中心地となった。遅くとも第 12王朝時代にはオシリスの死と復活を扱った聖劇がアビドスで演じられるにいたった。オシリスの近くに埋葬されたいと願う信者たちの巡礼地となり,そこに葬られない場合には死者の名前などを記した石を置いたものらしく,そのような石が多数発見されている。歴代のファラオはアビドス神殿造営に励み,またアビドスに自分の記念神殿を建てた。このうち,セティ1世の神殿は大部分が保存され,7柱の神に捧げた7つの礼拝堂にある彩色浮彫は美しい。また廊下壁面に刻まれた「アビドスの王名表」は史料的価値が高い。諸神殿の周囲にはプトレマイオス朝時代からローマ時代にいたるさまざまな時期の墓地が多く,アビドスは考古学上重要な場所である。

アビドス
Abydos

アナトリア古代都市ヘレスポントスダーダネルス海峡)の東側,今日のトルコチャナッカレ北西に位置する。初めトラキア人の都市だったとみられ,前670年頃にミレトス人(→ミレトス)が植民した。前200年マケドニア王国フィリッポス5世に対して果敢に戦った。この戦いヘロとレアンドロス伝説によって知られる。ヘレスポントス海峡の通関都市としてビザンチン帝国時代後期まで存続した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アビドス」の意味・わかりやすい解説

アビドス
あびどす
Abydos

ナイル川の左岸テーベ下流約300キロメートルに位置する、古代エジプトの聖地。初期王朝時代(前3100ころ~前2686ころ)にすでに地域神の聖地とみなされていたが、復活と永生の神オシリスOsirisの信仰がピラミッド時代(前2686ころ~前2181ころ)に王家の宗教となってから、この地の重要性は飛躍的に増大した。オシリスはこの地に葬られたと神話は述べていたからである。以後、歴代の諸王はここに墓、神殿、記念碑を築き、アビドス巡礼は王の義務となった。

 考古学上の発掘調査は、19世紀以来頻繁に行われている。ギゼーの大ピラミッドの建造者クフ王の現存唯一の彫像は、ここでイギリスのピートリー(ペトリー)によって発見された。セティ1世神殿、ラムセス2世神殿などがいまもみられる。

[酒井傳六]

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