セト(読み)せと(英語表記)Seth

翻訳|Seth

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セト」の意味・わかりやすい解説

セト
せと
Seth

古代エジプトの創世神話で重要な役割を果たしている男神。兄と妹である地の神ゲブと天空の女神ヌトの間から二男神と二女神が生まれたが、セトはその末弟で、兄はオシリス、姉にあたる二女神はイシスとネフティスである。プルタルコスが伝えている「オシリス神話」によれば、セトは兄オシリスの名声をねたみ、兄を計略によって殺害すると、その遺体をばらばらにしてナイル川に流した。その遺体はオシリスの妻となった妹イシスによって集められ、セトは、オシリスとイシスの間に生まれた男神ホルスによって仇討(あだうち)されたという。セトはしばしばロバのような姿の獣として表され、オンボス市の神、ヘリオポリス市の九神の一つとされた。メンフィスの神話では、セトは上エジプト、オシリスは下エジプト、そしてセトを滅ぼしたホルスは上下エジプトを統一した者とみなされる。後代には悪の代表とされ、またギリシアでは多頭の怪物ティフォンと同一視された。

矢島文夫

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セト」の意味・わかりやすい解説

セト
Set

エジプト神話の神。初めは上エジプトの地方神であったが,次第にその邪悪な性格が強調され,オシリス神話では,肥沃な土地や豊かな水や光に対する不毛の砂漠,乾燥,暗黒を人格化した破壊,悪の神とされた。そこでは,オシリスの弟として王位を奪うため兄を殺すが,結局兄の遺児であるイシスの子ホルスにより打負かされる。ヒクソスの占領期には,ヒクソスの主神である戦神ステクと同一視された。そののち時代が下るにつれ,セトは迫害され一種悪魔とみなされるにいたった。四角い耳と長い曲った鼻面と先が分れた尾をもつ動物の姿で,または肩の上に四足獣の頭を載せた人間として表わされる。

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