イシス(読み)いしす(英語表記)Isis

翻訳|Isis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イシス」の意味・わかりやすい解説

イシス
いしす
Isis

古代エジプトおよび古代ギリシア・ローマで崇拝された女神。イシスというのはギリシア読みで、古代エジプト読みではシェト、イシェトとなる。地の神ゲブと天の女神ヌトから生まれた4神のうちの1神で、ほかの3神は男神のオシリスセト、女神のネフティスであった。オシリスと兄弟婚をして、男神ホルスをもうけた。プルタルコスが伝える『オシリス神話』によれば、夫オシリスがセトに殺されてその遺体をナイル川に投げ込まれたのち、イシスは各地をさまよってオシリスの遺体を探し出し、生き返らせたという。また息子のホルスを育てて父の仇討(あだうち)をさせたことから、イシスは良き妻、良き母、すなわち女性の典型とみなされた。他方、太陽や牝牛(めうし)とつながりをもつ豊饒(ほうじょう)の女神としてエジプト各地で崇拝され、エジプトが衰退したのちは、ギリシア、ローマでイシス崇拝が広く行われた。ナイル川中流のフィラエ島に大神殿がある。

矢島文夫


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イシス」の意味・わかりやすい解説

イシス
Isis

古代エジプト宗教の最高の女神。初めはナイル川デルタ地帯のブシリス北方のペル・ヘベットの女神。天神ヌトと地の神ゲブの娘で兄オシリスの妻となってホルスを生む。弟セト陰謀により夫が殺され王位を奪われると,彼女は夫の遺体を見つけ出して集めこれを蘇生させ,デルタの沼地でこっそりホルスを育てた。ホルスは成長して父の仇を討ち,オシリスはよみがえって地下界の王となった。イシスは,最高神レーの秘密の名を知ることにより神々のなかの最高位についた。元来穀物の神と考えられ,のちに月神,復活神,陰府神,医薬神として信仰された。イシス崇拝は全エジプトで行われ,早くからシリア,クレタやギリシア,ローマにまで伝わった。その神殿は帝政期のローマでも栄えた。ギリシア人はデメーテルヘラなどと同一視し,航海者の守護神として各地の港で崇拝した。

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