改訂新版 世界大百科事典 「アブラゼミ」の意味・わかりやすい解説
アブラゼミ
Graptopsaltria nigrofuscata
半翅目セミ科の昆虫で,日本ではもっともふつうなセミ。その鳴声が油の煮えたぎる音に似ていることからこの名がついた。北海道から屋久島までの日本全国,朝鮮半島,中国に分布する。体は黒色で翅は茶色,腹背の両側は広く白粉で覆われる。体長3.4~4cm,前翅の開張9.5~10.5cm。7~9月に出現し,平地から山地にかけての雑木林に多く,夕方とくによく鳴く。卵の期間は約300日,卵から成虫まで6~8年かかる。サクラなどのほか,リンゴやナシにとくに多く,それらの果樹園では吸汁をする害虫とされる。奄美大島から沖縄本島にかけては別種のリュウキュウアブラゼミG.bimaculataが分布している。体に斑紋のあること,鳴声が非常に短く断続的であることなどにより区別できる。アブラゼミ属のセミは日本各地に多いことから,世界的にも普遍的のように思われがちだが,この仲間はいずれも中国から日本にかけてしか知られず,種数もわずか3種である。そのうち2種は日本に分布するが,他の1種G.tientaは中国の福建省~四川省の山地から知られる。
執筆者:林 正美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報