改訂新版 世界大百科事典 「アメンボ」の意味・わかりやすい解説
アメンボ (水黽)
water strider
Gerris paludum
半翅目アメンボ科の昆虫。つかまえると焦げたあめのようなにおいを出すので飴坊(あめんぼ)という名がつけられたともいわれる。長い脚をボートの櫂(かい)のように動かして水面を滑走する昆虫はほかに見られない。水にぬれない細毛が全身を覆い,むちのように細長い中・後脚の先端部で水面を広く押さえて,水の表面張力による浮力で体を水面上に支えている。水の表面張力が小さくなればアメンボは水に浮いていられない。このため,水にセッケンや洗剤などを入れるとアメンボはだんだん沈んでいきおぼれてしまう。滑走中は前脚の跗節(ふせつ)も体を支えるため水面を押さえている。体長15mm前後で長形。背面は黒く腹面は銀色である。おもに水の上に落ちてくる小さい昆虫を食べるが,水面に落下した獲物がもがいてできる波を感知してその位置をつきとめる。雌は雄を背負ったまま,他物を伝って水中に潜って産卵する。ヨーロッパから日本にかけての旧北区に広く分布している。同科の日本産で海産のウミアメンボ属Halobatesには6種あるが,いずれも体は短く,卵形で3~6mm,蠟物質に覆われ灰白色である。コガタウミアメンボH.sericeus,センタウミアメンボH.germanus,ツヤウミアメンボH.micansは海岸から数十~数百kmも離れた大洋面にも進出する。水面で活動するカメムシ類(アメンボ,サンゴアメンボ,カタビロアメンボ,イトアメンボ,ミズカメムシ,ケシミズカメムシの各科)を広い意味でアメンボ類ということもある。アメンボ科以外のアメンボ類は跗節だけで水面を押さえ,水面を歩いたり走ったりして移動する。イトアメンボHydrometra albolineataは体長13mm前後,非常に細い体,髪の毛ほどの脚をもち,水面を歩いたり走ったりする。日本にはほかに4種分布するが,九州以南の暖かい地方に多い。いくつかの種類では交尾行動などの際の個体間のコミュニケーションに,脚を動かしてつくる水面の波を用いるものがある。
執筆者:宮本 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報