翻訳|gum arabic
植物起源の代表的な親水性粘質物で,狭義には,北東アフリカに生えるアカシア属樹木の分泌物をいう。著名なものは,ナイル地方の常緑小高木アラビアゴムノキAcacia senegalよりとれる。樹皮の傷口から自然に流れ出たもののほか,雨季終了後に人為的に傷つけてとったものもある。分泌物はゴムという名ではあるが,弾性ゴムとは全く違うものからできている。弾性ゴムが石油同様,炭素と水素からなる炭化水素であるのに対し,アラビアゴムは酸素も含む多糖である。主成分はアラビンと呼ばれる多糖で80%を占め,残りの15%が水分,他は灰分などである。多糖はガラクトース29.5%,アルドビウロン酸28.3%,L-ラムノース14.2%などよりなる。多糖であるため水と混ざりやすく,かつ混ざったものは粘り気をもつ。したがって菓子の乳化剤などに広く使われている。また,切手の〈のり〉などに使われるのも,乾いてさらっとしていたものが唾液ですぐ粘り気をもつためである。そのほか医薬,紙,印刷用インキなど用途は広い。このように多糖を樹木が分泌する身近な例は,サクラ属Prunusにもある。商品化されている例には中近東のアストラガルス属Astragalusからのトラガントゴムがある。アラビアゴムの主生産地はアフリカのスーダンで,日本は使用する全量を外国から輸入している。
執筆者:善本 知孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アフリカ産のマメ科(APG分類:マメ科)アカシア属の植物アラビアゴムノキ(学名はAcacia senegal)、またはその同属や近縁の植物の幹に傷をつけて採取した樹液を日照で乾燥した天然樹脂のこと。アラビアガムともいわれ、かつてアラビア半島を経由して輸出されたのでこの名がある。無色ないし淡黄色のガラス状樹脂である。主成分はアラビン酸とよばれる複雑な多糖であり、L-アラビノース、D-ガラクトース、L-ラムノースおよびD-グルクロン酸からなる。通常、カルシウム、マグネシウムおよびカリウム塩として存在し、加水分解酵素および酸化酵素が含まれている。用途は、水彩絵の具の展色剤(バインダー)、医療用の粘滑剤、錠剤の結合剤、乳化剤、糊(のり)および接着剤、ガムシロップなどである。かつてその水溶液はアラビア糊とよばれて用いられた。現在市販されているアラビックヤマト糊は、ポリビニルアルコール水溶液が主成分である。
[福田和吉 2019年10月18日]
アフリカ産のマメ科Acacia senegal,またはその同属植物の枝幹から得た分泌物の乾燥品.往時,アラビアを経て輸出されたのでその名がある.無色ないし淡黄褐色の透明または多少乳濁した球状塊あるいは破片で,砕面はガラス状で光沢があり堅い.主成分はアラビン酸79~81% で,Ca,MgおよびK塩として存在する.アラビン酸はL-アラビノース.D-ガラクトース,L-ラムノースおよびD-グルクロン酸からなる.加水分解酵素および酸化酵素が含まれている.水溶性であり粘滑剤として胃腸カタルなどに対する医療用として用いられるほか,錠剤などの結合剤,乳化剤,あるいは糊料,接着剤などとしても用いられる.[CAS 9000-01-5]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… アカシア属でソウシジュのように高木になる種は,材木として植林され,その早い生長が注目されている。樹皮からタンニンが採取される種も多く,モリシマアカシア,アラビアゴムモドキA.arabica Willd.(アフリカ原産)や,薬用にする阿仙薬が採取されるアセンヤクノキA.catechu Willd.(インド原産)などが有名である。しかし,アカシア属の最も重要な産出物は,アラビアゴムと称される樹脂であろう。…
…(1)ガムgumといわれる無定形物質。この代表的なものがアラビアゴムgum arabicおよびトラガントゴムgum traganth(トラガカントゴムgum tragacanth)である。主成分は種々の多糖類がさまざまな割合で結合した高分子物質で,水に入れるとコロイド溶液となるか,著しく膨潤し粘りけを示す。…
※「アラビアゴム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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