互いに混合しない油と水のような2液を混ぜて一方(分散相)を他方(連続相)の中に均一に分散させることを乳化というが,通常は2液の界面面積が大きくなるため,界面エネルギーが著しく増大し安定な乳濁液(エマルジョン)として存在することはできない。たとえば,油を水に加えて激しくかくはん(攪拌)すれば一時的な分散状態をつくり出すことはできるが,すぐ元の2液相に分離してしまう。このとき,たとえばドデシル硫酸ナトリウムのような界面活性剤を加えて分散させると,活性剤分子が油滴のまわりに親水基を外側に向けて吸着層を形成し,油滴の破壊を防ぐとともにそれに類似水溶性を与える。そしてその配向吸着層のため静電気斥力が増加し,油滴の再結合が妨げられ,乳化状態が安定化されることになる。このように乳濁液の製造を容易にしこれを安定化するような界面活性剤の働きを乳化作用といい,この目的で界面活性剤を利用するとき,とくに乳化剤という。界面活性剤以外にも,レシチン,コレステロール,ラノリンなども乳化作用を示し,アルギネート,カラギーナン,CMC(カルボキシメチルセルロース)などは乳化の補助剤となる。また,微粉砕した固体,たとえばカーボンブラックなども乳化剤として効果のある場合もある。
乳化剤の選択にあたっては,両液の性質,製品への影響,乳化の型が水中油滴型か油中水滴型かなどを考慮して決める。乳化の応用例としては,化粧品,医薬,農薬,食品,合成樹脂の乳化重合,塗料,靴墨,各種油類の乳化,アスファルトの乳化などがある。
油中水滴(W/O)型の乳化には比較的親油性の強い油溶性の乳化剤を,水中油滴(O/W)型の乳化には親水性の強い水溶性の乳化剤を選ぶのが一般原則である。非イオン系の界面活性剤は,その親水・親油性の程度を表現するのにHLB値を用いる(完全親油性ではHLB=0,完全親水性ではHLB=20)ことがあるが,それぞれの被乳化物に適したHLB値が与えられており,それを用いて乳化剤の選択の目安とするのが便利である。W/O型の乳化にはHLB=3.5~6,O/W型の乳化にはHLB=8~18の乳化剤が適するとされる。極端な例をあげると,鉱油(HLB=0)を水(HLB=20)の中に分散させてO/W型の乳化を行うとき,その仲介をする乳化剤としてはその中間のHLB=10程度のものがよいということになる。また親水基の数がやや多くHLB値の高いステアリルアルコールでは要求HLB値はやや高くなり,実験的には13~15が適するといわれている。
食品の乳化剤として用いられるものは天然物と合成品に大別され,大豆リン脂質である大豆レシチンや卵黄などが前者の例である。合成品には,グリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,CMCなどがあり,食品衛生法で規定されている。
→界面活性剤
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水と油のように、互いに相混ざらない2種の液の一方が、他方の液中に、直径約0.1~10マイクロメートルの大きさの小滴となって分散することを乳化という。乳化は乳化剤を用いることにより長時間安定化できる。乳化した液は乳濁液あるいはエマルジョンとよばれる(最近ではエマルションということが多い)。乳濁液の分散相が油で、連続相が水の場合を水中油滴型(o/w型)、分散相が水で連続相が油の場合を油中水滴型(w/o型)という。乳濁液がどの型になるかということに、もっとも影響を及ぼすものは乳化剤である。
乳化剤には、油と水に対してそれぞれ適当な親和性をもつことが要求される。界面活性剤の多くは、この条件を備えているので乳化剤として用いられる。安定な乳濁液をつくるには、乳化剤として用いられる界面活性剤の親水性と親油性のつり合いHLB(親水性親油性バランス)が重要な目安になる。グリフィンW. C. Griffinによると、これには0から20までの数値が目盛られ、値が高くなるにつれて親油性が減少し、反対に親水性が増加する。それぞれの乳化剤には実験に基づいて固有のHLBが与えられる。一定の油を乳化するときに、HLBの値が低い乳化剤を用いるとw/o型の乳濁液が生成し、反対にHLBの値が高い乳化剤を用いるとo/w型の乳濁液が生成する。
乳化剤は日常生活と関係が深い。たとえばポリ塩化ビニルのようなプラスチック原料、あるいはスチレン‐ブタジエン共重合体のような合成ゴム原料の製造には、乳化剤を用いて出発物質を乳化状態として重合反応を行わせる。また、バニシングクリームやコールドクリームのような化粧品は、いずれも乳化剤を用いて製造した乳濁液である。食品の分野では、マーガリンはw/o型、マヨネーズはo/w型の乳濁液であり、いずれも乳化剤が用いられている。道路工事に使用されるアスファルトエマルジョンは、アスファルトに、乳化剤として陽イオン界面活性剤を加えてつくられたものである。
[早野茂夫]
『北原文雄・玉井康勝・早野茂夫・原一郎編『界面活性剤――物性・応用・化学生態学』(1979・講談社)』
エマルション(乳濁液)の生成を助け,かつ生成した乳濁液を安定化するために加えられる物質.分子中に極性基と無極性基の両方をもつ表面活性剤物質である.一般には,乳化剤として界面活性剤が使用され,水中に油が分散した油(O/W)エマルションをつくる場合と,油中に水が分散した水(W/O)エマルションをつくる場合と,それぞれに応じて乳化剤を使い分ける必要がある.おもな乳化剤として,脂肪酸セッケン,ソルビタン脂肪酸エステル,スルホン酸塩,アミン塩などがある.[別用語参照]乳化
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これは界面活性剤分子が水に溶ける部分と油に溶ける部分とをあわせもち,水と油の界面にあって分散粒子を安定化するためである。このような働きをする物質を乳化剤といい,化粧品,食品,医薬,農薬,ペイントなどの製造になくてはならないもので,種々の界面活性剤がこの目的に使われている。水‐油の乳濁液では,どちらが滴状に分散するかによって,水中油滴(O/W)型と油中水滴(W/O)型がある。…
※「乳化剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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