ポーランドの小説家。ワルシャワ大学でポーランド文学を専攻、1932年に短編『うそつき』でカトリック作家としてデビュー、『心の秩序』(1938)で1939年に文学アカデミーの新人賞を受けた。ナチス占領中の地下文化活動を通して共産主義者となり、以後、作品は現代のモラルと政治がテーマとなった。戦争終了後、戦争文学の代表作となった『夜』(1945)を発表、『灰とダイヤモンド』(1948)で最初に戦争直後の国内のモラルと政治の混乱が引き起こす悲劇を描いて成功し、作家としての地位を不動のものとした。スターリン体制を経験し、自由主義者となり、公然と体制批判を行い話題となった。1976年につくられた反体制組織「社会自衛委員会」に主要メンバーとして参加。最後の長編『どろどろ』(1982)で自らの精神の遍歴を知識人の苦悩として描き注目を集める。国会議員も経験。おもな作品に短編集『金色のキツネ』(1955)、長編『闇(やみ)は大地をおおう』(1957)、『天国の門』(1960)、『とびはねて丘を行く』(1963)などがある。
[山田正明]
『川上洸訳『灰とダイヤモンド』(旺文社文庫)』
ポーランドの小説家。ワルシャワに生まれ,1930年代にデビュー。教会の道徳的価値を問うた《心の秩序》(1938)で脚光を浴びる。戦争と抵抗運動の経験を踏まえて,1945年に発表された《夜》は戦後社会主義の模範的リアリズム小説集とみなされ,《灰とダイヤモンド》(1948)は終戦当時のパルチザン活動と主人公の青年の悲劇的な死を描き,ワイダ監督の映画によっても有名。しかし短編《金いろの狐》(1954)を残したあと,雪解けの時代の作品である《闇は大地をおおう》(1957)や《天国の門》(1960)では中世異端審問や少年十字軍などの歴史的題材にとりくみ,グロテスクの手法や大胆な文体上の実験を試み,同時にスターリン主義との対決を強めた。現代ポーランド社会の矛盾と不和を赤裸々にあばいた《アピール》(1968,パリ刊)や《どろどろ》(1982)は当局の検閲を受けて長らく公刊を控えられていた問題作である。
執筆者:西 成彦
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