日本大百科全書(ニッポニカ) 「イエレン」の意味・わかりやすい解説
イエレン
いえれん
Janet Louise Yellen
(1946― )
アメリカの経済学者。2014年から2018年まで第15代アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めた。100年を超す歴史のFRBで初の女性議長。リーマン・ショック後の世界金融危機を脱するため、前任議長のベン・バーナンキの量的金融緩和策をFRB副議長として支え、その後、世界景気の回復にあわせ、FRB議長として量的金融緩和策の縮小、廃止、利上げという金融政策の正常化(出口戦略)に取り組んだ。退任後は有力シンクタンク、ブルッキングス研究所の常駐特別招待フェローについた。
ニューヨーク市ブルックリン区生まれ。1967年ブラウン大学経済学部を卒業し、1971年にエール大学で経済学博士号を取得した。ハーバード大学助教授、カリフォルニア大学バークリー校教授、FRB理事などを歴任し、1997年から1999年までクリントン政権の大統領経済諮問委員会委員長、2004年から2010年までサンフランシスコ地区連邦準備銀行総裁を務めた。2010年からはFRB副議長として、冷え込んだ世界景気を量的緩和政策で下支えするバーナンキを補佐した。金融政策の目的として、インフレの抑制よりも雇用の改善を重視し、金融引締め策に慎重な「ハト派」として知られる。経済分析の的確さには定評があり、アメリカ議会や市場関係者に支持者が多かった。2008年のリーマン・ショック以降、FRBが実施した大規模な金融緩和策の幕引きと金融政策の正常化を円滑に進め、市場や金融界の評価は高かったが、人事面でも前政権からの変化を打ち出したい大統領トランプの意向で、異例の1期4年でジェローム・パウエルへ議長職を譲った。夫は情報の非対称性を用いた市場分析理論で2001年にノーベル経済学賞を受けたジョージ・アカロフである。
[矢野 武 2018年8月21日]