アメリカ独特の中央銀行制度で、1913年12月23日の連邦準備法Federal Reserve Actに基づいて設立され、連邦準備銀行、連邦準備制度理事会、連邦公開市場委員会、連邦諮問委員会および加盟銀行によって構成される。
〔1〕連邦準備銀行Federal Reserve Bank 略称FRB。全国を12に区分した連邦準備区の各中心地に1行ずつ設けられており、その所在地は、ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリス、カンザス・シティ、ダラス、サンフランシスコである。また全国に25の支店がある。連邦準備銀行の主要な業務は、加盟銀行の法定準備金の保有、手形割引および貸付、公開市場操作、連邦準備券Federal Reserve notesの発行、手形の交換および取立て、加盟銀行の業務の検査、国庫代理店としての機能などで、各国の中央銀行と同じように、銀行の銀行として活動している。
〔2〕連邦準備制度理事会Board of Governors of the Federal Reserve System、Federal Reserve Board 略称BGFRS、FRB。12の連邦準備銀行の管理統括機関で、ワシントンに所在する。初めは連邦準備局Federal Reserve Boardとよばれていたが、1935年銀行法によって連邦準備制度理事会と改称された。現在の理事会は、大統領が上院の同意を得て任命する7名の理事によって構成され、理事の任期は14年である。各理事の選出にあたっては、大統領は金融、農業、工業、商業の利益と地理的区分を正しく代表するように留意し、理事のうちから理事会の議長と副議長を任命する。任期は4年である。理事会の主要な任務は信用状態の規制と連邦準備銀行の監督である。信用状態の規制については、理事会は次の権限をもっている。(1)加盟銀行の預金に対する法定支払準備率を一定範囲内で変更する。(2)連邦準備銀行が加盟銀行に対する貸付と割引に対して設定する割引率を審査し決定する。(3)株式証拠金率を変更することによって証券市場信用統制を実施する。なお、以上のほかに、1980年3月までは、加盟銀行の定期・貯蓄預金の金利最高限度を決定する権限をもっていた。
〔3〕連邦公開市場委員会Federal Open Market Committee 略称FOMC。1935年の銀行法により設定され、連邦準備制度理事会の7名の理事と、12の連邦準備銀行から選出される5名の総裁(ただしニューヨーク連邦準備銀行総裁は常任)によって構成される。連邦公開市場委員会の決定に基づく証券の売買は、準備制度公開市場勘定の名において、ニューヨーク連邦準備銀行の諸施設を通して実行される。各連邦準備銀行は、全連邦準備銀行の資産総額に対する各行の資産額の比率に応じてこの勘定に参加する。連邦公開市場委員会の名義で行われるすべての取引は、ニューヨーク連邦準備銀行の幹部職員である準備制度公開市場勘定支配人の監督を受ける。なお、連邦公開市場委員会の委員長は連邦準備制度理事会議長が兼任し、副委員長はニューヨーク連邦準備銀行総裁が就任する。
〔4〕連邦諮問委員会Federal Advisory Council 略称FAC。各連邦準備銀行の取締役会が毎年それぞれの連邦準備区内から1名ずつ選出した12名の委員によって構成される。連邦諮問委員会はワシントンで少なくとも年に4回会議を開き、経済情勢について連邦準備制度理事会と協議し、連邦準備制度の運営に関して助言的勧告を行う。
〔5〕加盟銀行member banks 連邦準備制度に加盟している商業銀行をいい、国法銀行national banksは加盟銀行になることを義務づけられているが、州法銀行state banksは一定の要件を満たせば、任意的に加盟銀行となることができる。加盟銀行は連邦準備銀行から割引・借入特権を与えられるほか、情報の提供など各種の便益の提供を受ける。他方、連邦準備制度理事会の設定する法定支払準備率の適用を受けるほか、連邦準備銀行への出資など各種の義務を負う。なお、1980年3月の法律によって、法定支払準備率と割引・借入特権は、加盟銀行以外の金融機関にも適用されることになった。
〔6〕連邦準備政策Federal Reserve policy 連邦準備制度理事会と連邦公開市場委員会が行う金融政策をいう。連邦準備政策は国際金融市場に与える影響が大きいから、世界各国から注目されている。1979年以降、ボルカー(1979~1987)、グリーンスパン(1987~2006)、バーナンキ(2006~2014)、イエレン(2014~2018)の各議長のもとで、連邦準備政策は積極的に運営され、その時々のインフレとデフレの克服に役だっている。なお、2018年2月にパウエルが議長に就任した。
[伊東政吉 2018年8月21日]
『B・H・ベックハート著、矢尾次郎監訳『米国連邦準備制度』(1978・東洋経済新報社)』▽『高山洋一著『ドルと連邦準備制度』(1982・新評論)』▽『マクスウェル・ニュートン著、佐藤栄二訳『米国中央銀行 the FED――暴かれた聖域』(1985・東洋経済新報社)』▽『米国連邦準備制度理事会著、日本銀行米国市場研究会訳『米国連邦準備制度――その目的と機能』(1985・日本信用調査出版部)』▽『ウィリアム・メルトン著、篠原興訳『FRB――米国金融政策の舞台裏』(1986・日本経済新聞社)』▽『A・ブローダス著、春田素夫訳『アメリカ連邦準備制度の話』(1989・東洋経済新報社)』▽『デビッド・M・ジョーンズ著、橋本孝久監訳『FRBの政治学――通貨の番人たちの素顔』(1991・日本経済新聞社)』▽『須藤功著『アメリカ巨大企業体制の成立と銀行――連邦準備制度の成立と展開』(1997・名古屋大学出版会)』▽『アンマリー・ミューレンダイク著、立脇和夫・小谷野俊夫訳『アメリカの金融政策と金融市場』(2000・東洋経済新報社)』▽『G・エドワード・グリフィン著、吉田利子訳『マネーを生みだす怪物――連邦準備制度という壮大な詐欺システム』(2005・草思社)』▽『中尾茂夫著『FRB――ドルの守護神』(PHP新書)』
1913年12月23日制定の連邦準備法Federal Reserve Actに基づいて設立されたアメリカ独特の中央銀行制度(中央銀行)。略称FRS。同制度の主要な構成は,連邦準備制度理事会,連邦公開市場委員会,連邦準備銀行,連邦諮問委員会および加盟銀行である。
連邦準備制度理事会Board of Governors of the Federal Reserve Systemは連邦準備制度の最高機関で,ワシントンに所在する。同理事会は連邦政府の一機関であり,大統領が上院の助言と同意を得て任命する7人の理事によって構成される。理事の任期は14年であり,2年ごとに理事1人が任期を満了するようになっている。14年の任期を満了した理事は再任されない。理事会の議長と副議長は理事のなかから大統領によって任命される。任期は4年で再任を妨げない。理事会のおもな機能は金融政策の決定であり,そのほか商業銀行の営業活動と各連邦準備銀行の業務の監督,規制の責任をもっている。理事会の7人の理事は,次に述べる連邦公開市場委員会のメンバーを兼ねる。理事会は,連邦公開市場委員会に参加するという機能に加えて,加盟銀行に対する支払準備率の設定,各連邦準備銀行の設定する割引率(日本の公定歩合にあたり,日本の新聞などでは〈公定歩合〉の用語を使っている)の審査と決定,連銀貸出しの運営管理に関する規定の発布,株式の証拠金率の決定を行っている。1980年3月までは加盟銀行の定期・貯蓄預金に対する金利上限を設定する権限をもっていた。また理事会は海外業務活動を含む加盟銀行の業務活動や各連邦準備銀行の業務に対し,監督・規制の責任をもつほか,銀行持株会社の業務活動を規制している法律の管理運営にもあたっている。
理事会は議会に対して,年次報告書を提出しているほか,《連邦準備月報Federal Reserve Bulletin》や,統計書を含む各種の刊行物を通じて,連邦準備制度の活動状況に関する情報を提供している。
連邦公開市場委員会Federal Open Market Committeeは,金融政策の重要な手段の一つである公開市場操作(オープン・マーケット・オペレーション)を行う責任機関であり,連邦準備制度が公開市場で行う諸取引に関して,決定を行う法的権限をもっている。連邦公開市場委員会の指令は,連邦準備制度公開市場勘定支配人によって,ニューヨーク連邦準備銀行の諸施設を利用して実施される。公開市場操作は加盟銀行の準備金に与える影響を通して,通貨供給を調節する重要な政策手段である。
連邦公開市場委員会は,連邦準備制度理事会の7人の理事と,5人の連邦準備銀行総裁によって構成される。5人の総裁のうち,ニューヨーク連邦準備銀行総裁は常任であり,他の4人の総裁は,ニューヨーク連邦準備銀行を除く11の連邦準備銀行の総裁のうちから1年交代で務めることになっている。連邦公開市場委員会の議長は,連邦準備制度理事会議長が兼任し,副議長はニューヨーク連邦準備銀行総裁が選出されている。
連邦準備銀行Federal Reserve Banksは,アメリカ全土を12の連邦準備区に分け,それぞれの中心地に所在する銀行である。この12の連邦準備銀行の所在地は,ボストン,ニューヨーク,フィラデルフィア,クリーブランド,リッチモンド,アトランタ,シカゴ,セント・ルイス,ミネアポリス,カンザス・シティ(ミズーリ州),ダラスおよびサンフランシスコである。また全国で25の支店がある。連邦準備銀行の主要な業務は,加盟銀行の法定準備金の保有,手形割引および貸付け,連邦準備券の発行,手形の交換および取立て,公開市場操作に基づく国債保有,加盟銀行の業務の検査,国庫代理人としての機能等で,各国の中央銀行の機能と異ならない。
連邦諮問委員会Federal Advisory Councilは,12の連邦準備区の加盟銀行から,それぞれ1人選出される12人の委員によって構成される。同委員会は最低年4回ワシントンで開催され,金融・経済問題について連邦準備制度理事会と協議し,連邦準備制度に関する諸事項について理事会へ勧告を行う。
加盟銀行member banksとは連邦準備制度に加盟している銀行のことであるが,典拠法の違いによって国法銀行と州法銀行がある。国法銀行は加盟が義務づけられているが,州法銀行は加盟は任意である。加盟銀行のメリットは,(1)連邦準備銀行からの借入れ,(2)小切手の取立て,交換じりの決済,(3)所属連邦準備区の連邦準備銀行の取締役9人中6人の選出に参加すること,などである。他方,加盟銀行は連邦準備制度理事会の設定する支払準備率によって,預金に対して準備金を保有しなければならない。加盟銀行に対する支払準備率よりも,各州の設定している支払準備率のほうが一般的に低かったので,州法銀行は加盟したがらず,近年,商業銀行全体における加盟銀行のシェアは低下してきた。しかし,1980年3月に成立した〈1980年預金金融機関規制緩和・通貨管理法〉によって,連邦準備制度理事会の設定する支払準備率は非加盟の預金金融機関にも適用されることになった。
執筆者:伊東 政吉
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アメリカの分権的な中央銀行制度。1913年プログレッシヴィズム(革新主義)政策の一環として創設。全国を12の連邦準備地区に分け,各区に中央銀行の機能を持つ連邦準備銀行を設置,全体の統括機関として連邦政府内に連邦準備局を置いた。これにより銀行制度に対する政府規制を可能にし,安定した金融業務の維持を企図したが,ニューヨークのウォール街の支配力が引き続き強く,29年大恐慌の勃発で銀行制度の破綻が表面化した。ニューディール期の35年銀行法で改組され,広範な権限を持つ連邦準備制度理事会ならびに連邦公開市場委員会が設立され,金融政策の実権がウォール街から連邦政府に移行したとみなされる状況となった。現在景気対策等の面できわめて重要な機能を担っている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
(2012-09-11)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 行政機関としては大統領府,行政各省のほかに,独立した重要な行政機関がある。まず,大統領から独立し,半ば立法的・司法的機能をもつ行政委員会,たとえば連邦準備制度理事会,連邦取引委員会,全国労働関係委員会などがある。また大統領の指揮下にあるが,各省には属さない官庁として,環境保護庁などがあり,さらに大統領の管轄下にあるが,独立の事業機関として合衆国郵便公社,テネシー渓谷開発公社(TVA)などがある。…
…しかも,その規定は1935年の銀行法に至るまで効力を発揮した。また,1913年の連邦準備法Federal Reserve Actは,全国に12の連邦準備銀行(連邦準備制度)を設置して分権的な中央銀行制度の確立をめざした。しかし,たとえばカリフォルニアのバンク・オブ・アメリカ(バンカメリカ)のように,支店制預金銀行として発展をとげた巨大銀行もあるし,1870年代に出現した投資銀行家を中心に大規模な金融トラストが展開するという局面もみられた。…
…今日の世界各国には,それぞれの金融組織の中核として金融調節を行い,金融政策の運営を担当する単一の銀行,すなわち中央銀行が存在している。具体的には,アメリカの連邦準備制度,イギリスのイングランド銀行,フランスのフランス銀行,ドイツのドイツ連邦銀行(ブンデスバンク),そして日本の日本銀行などである。 現存する中央銀行のなかで最も古いのはスウェーデン国立銀行(1668設立)であるが,今日みられるような典型的な中央銀行制度の確立過程において最も大きな貢献をしたのはイングランド銀行(1694設立)であった。…
※「連邦準備制度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
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